嬉しい理由
ことことを音を立てる鍋からはいい香りがする。トントンとリズムよく包丁を刻む音。そして、楽しそうな鼻歌。
「……何がそんなに楽しいんだか」
「そりゃ、アナタのお誕生日だからでしょう?」
半ばあきれ交じりのアリオスの言葉に才色兼備の女王補佐官はきっぱりと答える。
「女王はずっと楽しみにしておられましたからね」
すっかり人型にいることにも慣れてしまった、アルフォンシアことエルダもレイチェルに同意する。
「で、何でお前らがここに?」
「一緒にお祝いして欲しいからって、言われたから」
「遠慮くらいして見せたらどうだ?」
「遠慮しなくていいって言ったのはアンジェだし」
せっかくのアリオスの誕生日だから、皆でお祝いしてあげたいと言い出したのはアンジェリークで。しっかり便乗させて
もらったと言うわけだ。
「とりあえず、これはワタシから」
そういって、レイチェルが出したのは明日のスケジュール表。それは白紙のもの。
「これを埋めるも、白紙のままにするのもアナタしだいと言うことで」
「私も協力はいたします」
持つべきものは有能な女王補佐官と女王の半身というべきか。…ここまで、協力的なのもかえって不気味なのであるが。
「あの子があんなに楽しみにしてて、嬉しそうに準備してるじゃない。だから、つい協力してあげたくなるんだよね」
この日のために、女王の仕事を一生懸命にこなし続けて。自分ひとりで走り回って。文字通りとご馳走を振舞おうと頑張って
いる。けなげで可愛いと思うのはいけないことだろうか。
「アリオス、もう少し待っててね。ケーキが焼きあがるから。あまり甘くないチョコレートケーキなの。お酒も効かせてある
から、気に入ってくれると思うわ」
キッチンから、エプロン姿のアンジェリークが顔を覗かせる。その姿は本当に楽しそうで。それが自分のためだと言うところに
アリオスは何ともいえない。
「お前、自分の誕生日でもないのに、何で楽しいんだ?」
思わず、ひねくれたことを言ってしまうのもやはり持って生まれた性格で。それは転生しても変わらない。だが、アンジェリークはそんなことを気にせずに笑顔で答えた。
「だって、アリオスの誕生日だもの」
「……」
「アリオスが生まれてきてくれたことを親しい人でお祝いしたいの。なんて、私の我儘なんだけどね」
そういって、悪戯っぽく笑うアンジェリークの表情は女王と言うよりは、ごく普通の少女だ。
「ラムのシチューとねサラダはもう出来上がってるから。ワインもね、用意してるし。だから、楽しみにしてね」
本当に嬉しそうに笑う。こんな表情を見せられたら、敵わないとすら思えてくる。
「アンジェ、盛り付け手伝うよ」
「ありがとう、レイチェル」
キッチンに入ってゆく少女二人の姿に残された一人と一匹(?)はどちらからともなく顔を見合わせる。
「あなたの幸せがアンジェリークの幸せですからね」
「ケダモノに言われなくてもわかってるさ」
「ええ。わかっていますがね」
余裕の笑顔のエルダにアリオスはとりあえずは反論はしないことにする。何故、誕生日だと言うのにこんな風に扱われる
必要があるのだろう。そう思わないことはないけれど。アンジェリークが喜んで準備してくれるのだ。甘んじて受けようとは思う。
そして、キッチンから暖かな香りがする。そして、嬉しそうにアンジェリークがアリオスに告げる。
「HAPPY BIRTHDAY! アリオス!」
間に合った〜。とにかく、おめでとう。アリオス。で、楽しそうにアリオスの誕生日の準備をするアンジェを書きたかったのでした。
|| <Going my Angel> ||