HAPPINESS
執務を終え、私室に戻ったアンジェリークの机の上にあったのはラッピングされたいくつかの箱。
「えっと……」
箱の上には1枚のカード。
「Happy Birthday」
といった一文だけ。
「アンジェ♪」
バタン…とレイチェルがノックもせずに入ってくる。女王陛下とその補佐官と言う間柄ではあるが、プライベートでは無二の
親友。これくらいは許されるのである。
「これ、レイチェルじゃないわよね」
「……ワタシは今朝渡したでしょ?」
「うん。ありがたく使っているわ」
今日はこの栗色の髪の女王の誕生日。執務が始まる前にレイチェルはアンジェリークにプレゼントを渡していた。ちなみにレイチェルが
送ったものは天使をかたどったガラス製の文鎮であった。
「じゃあ、これ……」
「ダンナでしょう?」
「だから、ダンナって言い方は〜」
女王の傍には常に才色兼備の女王補佐官と、女王を守護する銀髪の剣士がいる。そして、彼は何よりも彼女が愛して
止まない恋人。親友が持っていかれて悔しいのか、時々こうしてレイチェルはアンジェリークをからかうのだ。
「アナタのサイズくらい知ってて当然でしょう。毎晩……」
「ちょっと、レイチェル〜」
親友のとんでもない発言に真っ赤になる。だが、時々、正装から覗く紅い刻印にこの有能な補佐官様が気づかないはずが
なくて。
「とりあえずさ、ささやかだけど、パーティの準備は出来てるから。それに着替えておいでよ」
「う、うん……」
親友と恋人である青年と。3人だけのささやかなパーティの約束は1ヶ月前からのもので。その準備を二人で進めていて
くれたことも知っている。
「じゃ、着替えるね」
「うん。着替えたら、おいでね♪」
レイチェルが出てゆくと、アンジェリークは包装を解き始める。真っ白なシルクのドレス。所々に細やかな刺繍がされている。
パールのネックレスにピアス。ハイヒール。甘い香りの香水。そして、鮮やかな真紅のルージュ。
「これ、どんな顔して用意したのかしら」
クスクス笑いながら、袖を通してゆく。そのどれもがアンジェリークの身体にぴったりとフィットする。
「サイズ…ぴったりすぎない?」
恋人がどんな方法でサイズを知ったのか…とても考えたくないアンジェリークであった。
着替えて、真紅のルージュをつける。少し大人びた自分が鏡に映り、何となく照れくさい。クルリ…鏡の前でターンして
から、アンジェリークは親友と恋人の待つ部屋に向かった。
「Happy Birthday、アンジェ」
「ありがとう、レイチェル。アリオス」
手作りのケーキと御馳走と。美味しいワインと。3人だけのささやかなパーティ。公式行事にはしたくない、そう言って、
誕生日の祝いを断わろうとした少女にこれは二人の意思なのだ…と、伝えて、なんとか形にした。レイチェルにとっては
大切な親友、アリオスにとってはかけがえのない恋人、二人の利害が珍しく一致した形でもあったのだ。
「こんな風に大好きな人たちにお祝いしてもらって、とても幸せよ。私」
「ワタシも大好き、アンジェ」
恋人の存在をすっかり無視して、アンジェリークに抱きつくレイチェル。ワインのせい…にしても、あからさますぎるその
態度に、表情には出さないが不機嫌そうなアリオス。
「ねぇ、ダンナなんか1日くらいほっといてワタシの部屋でお泊りしようよ〜」
「勝手なこと、ぬかすな」
簡単にアンジェリークを引き剥がすと、自分の腕の中に収めてしまう。
「ちょっ、ちょっと、アリオス!」
「ひどーい、アンジェはアナタだけのものじゃないんだよ」
だが、聞く耳持たないとばかりにギュッと抱きしめていて。
「そうだな。こいつは俺だけのもんじゃないが」
そこで言葉を切って、アリオスは不敵に笑う。
「俺はこいつだけのもんだからな」
チュッと音を立てるように頬に口づける。
「アリオス〜」
「なんで、こんなのに惚れたのよ、アンジェ〜」
二人の少女の抗議など、何処吹く風とばかりに愛しい少女を満足するまで抱きしめるアリオスであった。
「もう、アリオスったら……」
あのあと、部屋に戻り、ひたすら真っ赤になるアンジェリークである。
「本当のことだろうが。俺はお前の為だけにここにいるんだからな」
口調とは裏腹に抱きしめる腕の強さが彼の真剣さを物語っているから。それ以上は何も言えなくて。
「あ、そうだ。プレゼント、嬉しかった」
「そうか?」
「わざわざ、買いに行ってくれたの?」
「まぁな」
その言葉が何となくくすぐったくて。アンジェリークはクスクス笑う。
「こら、何笑ってる」
からかうように耳元を掠めるアリオスの唇にピクン…とアンジェリークの身体が跳ねる。
「あ、あの。アリオス……」
「何だよ?」
耳朶を食むように耳元で囁く声。
「離れてくれると、嬉しいかな……」
「ク……」
笑いながらも、アリオスの腕は緩むことはなくて。
「なぁ、知ってるか?」
「何を?」
「男が女に服を送る意味……」
「?」
キョトンと首を振る少女の項にきつく口づける。
「や、やん……」
「これから、教えてやるよ……」
気がつけば、アリオスに抱き上げられていて。
「あ、アリオス……?」
嫌な予感に身を竦める。そんな少女に向けられるのは青年の意地の悪い微笑で。
「まぁ、これもプレゼントの一環だ……」
「ちょっと〜」
抗議する唇はとっくに塞がれていて。そのまま、寝室に連れ込まれてしまう。
いつも以上に愛された少女は翌日なかなか起きてこなかったこと。その理由を察した彼女の女王補佐官の眉間にきつい
皺が刻まれたことは言うまでもない。もっとも、それを気にするような青年ではなかったのだが。
自分自身のバースデープレゼントです。去年はイベントがあったから、コピー本出したけど。自己顕示欲強いな、私。で、これ、
裏があるんですけど、読みたいですか? 誕生日まで可哀想に……。
|| <Going my Angel> ||