クラヴィスの館の庭には色とりどりの花が咲き誇っている。クラヴィス自身は興味をあまり示さず、自然のままに置いている
(悪くいえばほったらかし)ため、この庭は最低限の手入れをしているだけなのだ。だが、この庭を遊び場にしている小さな天使
には関係がなく、思いのままに遊んでいる。
「はい、できましたよ」
「♪」
 優美なリュミエールの指が季節の花を編んで作った花冠。ふわふわの金の髪をした頭に乗せれば、可愛い花の天使が出来
上がる。
「よくお似合いですよ」
「♪」
 嬉しそうにパタパタと飛び回られると、作った当人のリュミエールも悪い気はしない。むしろ、誇らしいとすら思えてくる。
「クラヴィス様にもお見せしますか?」
 リュミエールの提案に少しアンジェリークは小首を傾げる。
「きっと褒めていただけますよ」
 言葉は少ないながらも、この小さな天使を誰よりも慈しんでいる。今日、アンジェリークが着ている服もクラヴィスがわざわざ
仕立てさせたものだ。(採寸はリュミエールがしたが、生地などはすべてクラヴィスの見立てなのだ)仕立て屋の主人がひどく
恐縮していたのを思いだし、リュミエールは思わず笑みをこぼしてしまう。あまりそのことを話すと、憮然としてしまうので、本人の
前では言わないが。
「どうします?」
 リュミエールの再度の問いにアンジェリークは首を振り、リュミエールの服の裾を掴む。
「どうかしたのですか」
 アンジェリークの意図がわからすに、リュミエールは困惑してしまう。アンジェリークは自分の花冠と庭の花を指差し、小さな
手をばたつかせる。言葉を話せない分、ゼスチャーと表情は豊かなのだ。そして、この小さな天使と過ごしてきたから、ある
程度は通じてしまう。
「ああ、クラヴィス様に花冠を編んであげたいのですね」
「♪」
 コクコクと頷く。クラヴィスがアンジェリークを慈しむのと同じように、アンジェリークもクラヴィスを慕っている。当然と言えば、
当然なのかもしれない。
「わかりました。じゃあ、私のやるようにしてくださいね」
「♪」
 大きく頷く姿もとても可愛くて、心を和ませてくれる。
 まずは花を摘むところから、始まって。リュミエールの懇切丁寧な教えに一生懸命、小さな手を動かして、花冠を編んで行く。
所々、形が崩れかけてはいるが、小さな手で精一杯編んだものを誰が拒めると言うのだろう。編み上げると、満足そうな可愛い
笑顔を見せられたら、それだけで満足だ。
「じゃあ、クラヴィス様に差し上げましょうね。待っていてください。呼んで来ますから」
 そう言って、リュミエールが去ろうとすると、アンジェリークは慌てて、リュミエールの服を掴んで必死に首を振る。
「どうかしましたか?」
 あまりにも、その様子が必死なので、慌てて振り返ると、パタパタとアンジェリークはリュミエールの頭上に飛んでくる。そして
……。
「え……」
 ふわり…と、花冠はリュミエールの頭上に載せられる。きょとんとするリュミエールにアンジェリークはニコニコと笑っている。
「私に作ってくれたのですか?」
 コクコクと頷くアンジェリーク。いつも優しいリュミエールのことも大好きなのだ…と、伝えたくて。その無邪気な心遣いに、リュミ
エールは穏やかに笑う。クラヴィスだけでなく、自分にも懐いてくれる小さな天使がとても可愛くて。
「ありがとうございます。とても嬉しいですよ」
「♪」
 その言葉に満足そうにアンジェリークは頷く。大好きな人に、自分が感じたような嬉しさを同じように感じてもらうのは、もっと
嬉しい。
「じゃあ、次はクラヴィス様のを編みましょうね」
「♪」
 頷いて、再び花冠を編み始める。今度は先ほどよりも、形が整いつつある。だが、リュミエールはこの花冠に満足していた。
(たまにはこういうのも、イイかもしれませんね……)
 アンジェリークにはクラヴィスが一番なのはわかっている。そんなアンジェリークがかわいくて、仕方ないのも確かなのだ。
だが、たまにはこんな日も赦されるのかもしれない。そんな事を思い
ながら、一生懸命に花冠を編む天使を見ていると、不意に視線が合う。ニッコリと笑顔を向けてくれる小さな天使に、何よりの
愛おしさを感じながら、リュミエールは笑顔を返すのであった。

たまにはリュミエール様が美味しくてもいいかなぁ…と……。

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