勝負!

「わぁ、いい景色〜」
 部屋から見える光景に感嘆の声を上げるむぎを依織は微笑ましく見つめる。
「さすがは一哉くんだよね。こんなお部屋を用意できるなんて……」
「確かに、僕も驚いたよ。しかも客は僕たちだけにして貸し切っているらしいしね」
「なんで?」
「ゆっくりできるように、彼なりの気遣いだろうね」
「一哉くんの気遣いって、使い方が間違ってる……」
 むぎの言葉に依織は苦笑するしかない。御堂グループ及び一哉を狙った、一連の事件が解決した後、一哉に協力してくれた謝礼代わりだと、この旅行をプレゼントされた。
『事件がらみで色々と松川さんには不便な思いをさせたしな。その詫びもかねて、な』
 その言葉にあたしは不便な思いをしなかったとでも言うのかと憤ったむぎに対して、一哉の言葉の裏の意味に気付いた依織はただにこやかに微笑むだけだった。
「お部屋にお風呂も付いてるんだ〜」
 部屋付きの露天風呂からの景色も見事ではある。この景色を温泉につかりながら堪能するかのも、この旅館の売りらしい。
『松川さん、ちゃんと露天風呂からの景色をあいつに楽しませてくださいよ』
と、むの知らないところでいらない忠告までいただいたが、それを依織がが気にするわけでもなく。
「こんな綺麗な景色を見ながらお風呂なんて、贅沢だけど、楽しみ♪」
 などと、可愛らしいことを言う恋人にほんの少しのいたずら心が芽生えて。
「じゃあ、一緒に入るかい?」
「な……! いいよ! ほら、大きいお風呂にも入りたいし!」
 途端に真っ赤になり、ブンブンと首を振る初々しい様子に依織はくすりと笑う。
「あ〜。笑った!!!」
「君があんまり可愛いからね」
 むくれるむぎを依織はいとしげに見つめる。
「お風呂、入ってくる!」
 その視線に耐え切れず、着替えを持ってむぎは部屋を出て行った。
「まだなの、かな? お姫さま……」
 そう呟いて、依織は自分も風呂に入りに行った。


 広い浴場で軽く汗を流した後は豪華な夕食が待ち受けていた。
「わぁ〜。おいしそう〜」
 並んだ食事に目を輝かせるむぎを依織も満足げに見つめる。
「美味しいね、依織くん」
「君のご飯が一番美味しいのだけれど?」
「お世辞でも嬉しいな」
 えへへ…と照れくさそうに笑いながら、むぎは並べられた食事をとる。誰かに作ってもらったご飯は美味しいんだ〜と幸せそうに食べるむぎをみて、依織は自分も幸せな気分になった。
 食後はまったりと会話を楽しんでいたが、ふいにくしゅんとむぎが小さな拍手をした。
「湯冷めしたのかな?」
「うーん?」
 鼻をむずむずさせるむぎに丹前を羽織らせる。
「も、一回お風呂に入ってくる」
「入れてあげようか?」
「結構です!」
 ぶんぶんと首を振ると、むぎは部屋を出て行った。


 ほかほかとすっかりぬくもって戻ってきたむぎは布団を敷かれた部屋に少しばかり戸惑った。同じ布団に枕が二つ並んでいる。
(これって、宿の人が?)
 うーんとぐるぐるしつつ、依織の姿を探してみると、依織は窓辺の椅子に腰掛けていた。
「おいで……」
「あ、うん……」
 戸惑いながらも、依織の前に座ろうとすると、依織はやんわりとそれを制した。
「え?」
「そうじゃないよ。こっち」
 依織の膝の上を指差されて、むぎは真っ赤な顔をする。
「え、えーと」
「僕の膝の上は嫌?」
「意地悪……」
 瞳を伏せられて、ねだられれば逆らえるはずもなく。むぎはおとなしく依織の膝の上に座った。
「なんだか、不思議な感じ?」
「そう?」
「だって、依織くんを見下ろしてる」
 いつもは身長の高い依織を見上げてるから、とむぎはくすくす笑う。そんなむぎに、依織は笑みをこぼし、そしてその柔らかな頬に触れる。
「むぎ……」
 引き寄せられれば、依織の唇に自分のそれを重ねるような形になる。いつもと違う口づけの形に戸惑う隙もなく、わずかに開いた唇の隙間から、依織の舌が入り込んできて、むぎの口内を蹂躙する。
「んぅ〜〜」
 深くなる口付けに身体の力が抜けて、むぎはぐったりと依織に身を任せる。その様子に満足げに笑みをこぼすと、依織はむぎの浴衣の帯に手をかけようとした。
「え、ちょっ、駄目!」
「それは聞けないね」
 慌てて、依織の手を止めようとするが、それはかなわず、依織はむぎの浴衣の帯をするりとほどいて。浴衣をはだけさせると、その動きは止まった。
「むぎ、この姿……」
「だから、駄目って言ったのに……」
 蚊の鳴くような声で恥ずかしがるむぎに依織は微笑を浮かべて。
「誘ってくれていたの、かな?」
「ち、違うの! 友達が『本当に勝負をかけるんなら、勝負下着なんか着ないで、中身で勝負する』とか言われて……」
「……じゃあ、勝負するつもりだったんだね?」
「え……」
 カァッとこれ以上はないくらいにむぎの顔は赤く染まった。浴衣の下には何もつけていない状態。男からしてみれば、十分に誘われているといっても過言ではない。
(ただ、後でどういう友達かは聞いておかないといけない、ね)
 何も知らないむぎに教えるのは自分だけでいいのだ。たとえ、女友達だろうとそれは許されるべきことではない。
「じゃあ、勝負と行きますか、お姫様?」
「……勝負にならないじゃない」
 すねたように見上げてくるむぎの頬に優しく口付けて。
「嫌?」
「いじわる……」
 そっと、腕を伸ばして、むぎは依織に抱きつく。柔らかな素肌があたるぬくもりに依織は目を細めて。はだけた浴衣を脱がせて、その柔らかな素肌に触れてゆく。
「あ、っん……」
 どこを触れてもこぼれる甘い声に依織もまた煽られていく。自分だけの色に少女が染まるように、依織もまた染められているのだから。
(本当、ある意味勝負になってないんだけどね……)
 こんなにも溺れているのは自分の方だ。最初から勝負になっていないのだから。ならば、自分の下に落ちてくるようにと仕掛けるだけ。夜はまだ長いのだから……。

エーと。これは元ネタがありまして。とある上司が女の子に「お前ら、彼氏と一緒の時は勝負下着履くんやろ?」というセクハラ発言に対し、
女の子たちが「え〜。本当に勝負かけるときは履きませんよ〜」と、セクハラ発言を一蹴したという話からです。
ちなみに、むぎタン。勝負下着も用意してますw 温泉ねただし、色々遊べますよね〜。

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