彼の舞台
よく一緒にお茶を飲む仲ではあったし、話も結構会う部分もあるから、僕らと彼は親しく見えるのだろう。実際、僕と彼は仲がよかったけれど、僕は彼の本当の姿を知っていたわけじゃない。互いに干渉しあわない、適度な距離を保てる関係が、ちょうどよかったのかもしれない。だって、彼は彼が自ら作り上げた世界観の中で、「フランシス」を演じていたわけだから。本人に自覚があるかどうかは定かではないけれど。
でも、まさか、彼女がその舞台から引きずり落として、演じていた「フランシス」の仮面をとって見せるとは思わなかった。いや、違うか。眩いばかりの流星の輝きに彼は自ら、その仮面を取ってしまったんだ。
エトワールの使命が終わった日の翌日。謁見の間に呼ばれたはずの彼女はなかなか姿を現さず、闇の守護聖であった彼も姿を見せず。誰もがやきもきしていた。陛下が一日滞在を伸ばしたのは何か理由あってのことだ。それなのに、呼ばれた本人と控えてなければならないはずの守護聖が姿を見せないんだから。まさか…と僕は思ったよ。けれど、そう簡単に彼が行動を起こすとも思ってなかったんだ。…その時点で僕はやはり「フランシス」を演じていた彼しか知らなかったからね。だから、驚いた。って言うか、驚くしかないだろう?
バタン! と大きな音で謁見の間の扉が開いて。彼女の手を引いた彼がいて。息せき切って、上気した顔でこう言ったんだから。
「陛下、レディは…エンジュは私の側にずっといてくれることになりました!」
満面の笑顔でそう告げる彼に、誰もが唖然を通り越して、固まるしかなかった。この僕ですら、だ。子供のように嬉しそうな、幸せそうな顔で笑う彼。そして、その傍らでくすくすと笑う彼女。その時、僕は知った。彼は僕たちが今まで知っていた「フランシス」の役を降りたことを。そして、彼女と綴る新しい物語の主人公になったことを。何ていうか、ね。この僕ですら、驚いたんだから、他の連中だって唖然としていたさ。一番最初に困ったような笑顔を浮かべたのは栗色の髪の女王で。そして、女王補佐官だった。
「エンジュには頼みたいことがあったんだけどね……」
そう苦笑するレイチェル。…誰もが予想もしてなかったからね。女王陛下ですら、この宇宙の意思ですら、だ。けれど、誰もが怒る気にもなれはしない。…というより、僕以外はあきれていたかもしれないけど。僕は正直楽しんでいた。これから、彼の物語は幸福に満ちたもので、それを見ているのは僕の芸術心を刺激する。だって、フランシスと言う仮面を外した彼が、これからどんな物語をつむぐのか? これまでの退屈な芝居とは違うってことはわかるんだから。興味を持たないほうがうそだ。
…とりあえずは二人への祝福にこの僕自らが肖像画を書いてみよう。そんなことを考えながら、僕は笑みをこぼした。
セイランとフランシスが仲がいいのは一癖ある人同士だからでしょうか?
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