罪な亜麻色

 執務の間の気分転換にと執務室を抜け出して、白の中庭にいくと、ベンチに腰掛けている少女に気付いて、フランシスは微笑をこぼした。少女はこの宇宙を救うと言われる伝説のエトワールと称される存在。そして、フランシスに取っては敬愛してやまない一人の女性。
「レディ……」
 声を掛けようとしたフランシスだったが、不意に息を飲む。エンジュが不意に三つ編みをほどきだしたのだ。
(ああ、レディ……!)
 結わえているリボンをほどくと、途端にはらはらと髪がほどけて行く。柔らかそうなその髪は軽いウエーブを作りだし、午後の光を柔らかに乱反射している。いつもの素朴で可愛らしい印象の少女は身を潜め、大人びた雰囲気を生み出していた。
「こんにちは。レディ」
「あ、こんにちは。フランシス様」
 声を掛けると、途端にいつものエンジュに戻る。それが少しばかり残念で、少しばかり安堵する。
「髪をおろしていらっしゃるんで、見違えてしまいましたよ。いつものレディとはまた違う魅力に溢れていて……」
「やだ、フランシス様。おだてたって、何も出ませんよ〜」
 そう言って、エンジュはくすくす笑う。
「実はリボンをどこかで無くしてしまって片方だけおさげが取れちゃったんです。で、おろしたんですよ」
「それは不運でしたね。けれど、私に取っては幸運だったようです」
「?」
 フランシスの言葉にエンジュは小首を傾げると、優美な笑顔を浮かべて、フランシスは言葉を続けた。
「私が知らなかったレディの素敵な姿を拝見することができましたから」
 そう言って、フランシスはエンジュの髪を一房手に取り、口付けを落とす。
「フ、フランシス様!」
「あぁ、レディ。申し訳ありません。貴方の髪が私を魅了して止まないので……」
 そう言いながらも、フランシスはエンジュの髪を離そうとしない。この人はこういう人だった…とエンジュは溜め息をつく。
「レディを憂いさせるつもりはなかったのですが……」
「それは判っています」
 あくまでも、素でやっているから、何も言えなくなる。
「なら、レディ。今から、私にお詫びの機会を与えてくださいませんか?」
「え?」
「セレスティアであなたのこの髪を飾るものを私に捧げさせてください」
「いや、そんな大袈裟な……」
「ダメ、ですか……」
 憂いを帯びた瞳。この瞳で見つめられたら、自分の方が悪いことをした気分になる。
「わかりました。じゃあ、リボンをお願いします」
「ええ。レディが望むなら店中のリボンを買い占めますよ」
「…それはいいです」
 リボンでいいと釘をさしてよかったとエンジュは安堵する。そんなエンジュとは裏腹に上機嫌なフランシスであった。

やっぱり、フランシスは切ない系じゃないと、あほな人になりかねない気が……。

|| <Back> ||