永遠の奇跡
連れてこられた場所はいつか二人で約束した場所ではなかったけれど、そこにも自然の造り出した壮大な
芸術が夜空いっぱいに広がっていた。
「わぁ……」
アンジェリークが感嘆の声を上げる。
「奇麗だな……」
「うん……」
アリオスの言葉に素直に頷くアンジェリーク。だが、チラリとアリオスを見つめる。
「どうした?」
「オーロラは奇麗だと思うの……。でも、この体勢は……」
「どうして?」
「だって…誰かに見られたら、恥ずかしいじゃない」
未だにアリオスはアンジェリークを抱き上げたままの体勢、いわゆる『お姫様抱っこ』の状態なのである。
「おまえはほっとくと、オーロラに見とれて、海に落ちるだろうが」
揶揄するような口調にアンジェリークも負けてはいない。
「ひどーい。私、そんなドジじゃないもの」
「ほぅ…海に落ちそうになったのはどなたさんだっけかな」
「……」
「どうした、反論しないのか?」
じっと顔をのぞき込んでやると、拗ねたような瞳でにらんでくる。
「アリオスのバカ……」
そんな表情がやはり可愛くて、思わず頬をつついてみたくなるが,今はアンジェリークを抱きかかえているし、
そんなことをしたら、ますます拗ねてしまうから。その衝動は押さえることにする。
「わかった、わかった。俺が悪かった。本音を言ってやるよ……」
そっと耳元にささやかれる言葉にアンジェリークは真赤になる。
『こうしてれば…おまえが俺のもんだってわかるだろ?』
さらりと言ってしまえるのが彼らしい。だが、言われたほうのアンジェリークは硬直している。
「どうした?」
「どうしたって……」
余裕綽々のアリオスの表情。からかわれているのは十分にわかりすぎている。
「意地悪……」
結局、こんなふうに拗ねてしまうしかないのだ。
「でも、嫌いじゃないだろ?」
「……」
「違うのか?」
「そうよ……」
ぎゅっとアリオスの首に手を回し、しがみつく。
「だって…私、アリオスのお嫁さんだもの」
アリオスの肩口に顔を伏せて、小さな声でのその言葉にアリオスの瞳が優しい光に彩られる。
「とんでもねぇ殺し文句だな」
そっと髪に口づける。言葉では伝え切れない愛しさを込めて。彼の大事なこの世界にたった一人の天使に。
「愛してる……」
囁かれる声にようやくアンジェリークが声を上げる。どちらからともなく、顔を寄せあう。触れ会う瞬間に二人で
クスリと笑いあって。
オーロラの下で口付けを交わしあう。いつかの約束を叶えた二人。そして…これからの誓いを込めて。他の誰
にでもなく、ただ一人の存在に。
クシュン。小さくくしゃみをして、アンジェリークが微かに震える。
「寒いか?」
「うん…ちょっと……」
シルクとレースでできた素材のその衣装は御世辞にも防寒に優れているとは言えない。
「風邪をひかれちゃ…やっかいだしな。補佐官殿がうるさいもんな」
「まだ…オーロラ見てたいのに……」
不満そうな顔をするアンジェリーク。
「また、連れてってやるよ。それにだな……」
アリオスの瞳が悪戯っぽく輝くのに、アンジェリークは嫌な予感がする。
「な…何……」
思わず顔が引き釣ってしまうが、アリオスがひくはずもない。
「ハネムーンの続きもあるだろう?」
「〜〜」
カーッと真赤に染まった頬に軽く口づける。
「あ…アリオス……」
「それに冷え切ってるからな……。暖めてやるよ」
その言葉と共に、アリオスがアンジェリークの手を取って、指先に口づける。冷え切った指に一本一本温もりを
与えてゆくように。そして、指先から流れるように…手の平に。
「意味…わかるな……?」
「うん……」
真摯な瞳。反らすことも許されないほどに。コクリとアンジェリークは頷く。アリオスはふっと微笑むと、天使を抱き
上げ直す。
「私もアリオスを暖めてあげる……」
「いや…もう、十分暖められてるさ……」
そう…体ではなく、凍りついていたこの心を。惜しむことのない愛情を注いで暖めて、救ったのは紛れもないこの
天使なのだから……。
月明りとほのかなキャンドルの光。散らばった衣装。光沢のあるシルクは夜の中も淡く光を反射している。
「ん……」
幾度も交わしあう口づけ。繰り返されるうちにそれは深くなってゆく。言葉よりも互いの気持ちを伝えるために……。
横たえられて、栗色の髪がベッドに広がる。その流れを追って、アリオスの唇が耳元に落とされる。軽く耳元に落と
されるキスに身を竦めるアンジェリーク。
「や……」
身じろいでみるが、叶うはずもなく。それ以上にアリオスの行為は進んでゆく。軽く甘噛みすると、舌を這わせて。
ぞくぞくした感覚がアンジェリークの背中に走ってゆく。
「んぅ……」
いつしか首筋に落とされた唇は赤い花をその白い肌に咲かせてゆく。首筋から、鎖骨に、そして…胸元に。
「アリオス……」
切なげに自分を呼ぶ天使の声。この時間だけは自分のものだとアリオスは思う。それを実感したくて、この天使を
色づけてゆく。自分の色へと……。
「あ…ぅ……」
水音が響く。羞恥に更に頬を染める。幾筋もの涙が…赤く染まった頬を更に彩る。
「アリオス……」
震える指で、声で天使が誘う。無意識の誘惑。それが罪であろうと、手にしないものがいるだろうか。アリオスの
色に染められた…この世で一番美しい天使が今、彼のためにだけ、降臨しているのだから……。アリオスはその
指をとって、そっと口づける。
「愛している……」
それが免罪符になるとは思えない。だが、自分はこの天使のために生きている。そして…今、この天使は自分の
腕の中にいることを望んでいる。触れないでいられるはずがない……。
「ん…ぁ……」
互いの熱を伝えあう。互いを求める情熱は炎となって…二人を包み込んでゆく。慣れない快楽に無意識にこぼす
涙を舌先でそっと拭う。
「ふ…ぁ……」
鼓動が同調してゆく。同じモノになってゆく。互いの望む高みへと二人上ってゆく……。フワリとした高揚感の後に、
飛翔する……。
二人同じ世界への扉を開いて……。
自分の腕の中で眠る天使をじっとアリオスは見つめている。その小さな手はアリオスに重ねられていて。左手には
約束のリング。
「いもしねえ『神様』なんかに誓う気はないが……。天使はここにいるからな……。愛してる……」
幾千の誓いと願いと愛を込めて。眠る天使に口づける。そして…彼もまた眠りへと誘われる。夢の中でもまた…この
天使と会うために……。
やりました。裏です。でも、そんなに悪くはないでしょ? …て言うか、馬鹿ップルだよ、こいつら。誰か何とかしてください。
特にアリオス。この人、転生してから、なにか吹っ切るものがあったのだろうか。