Crying


 ……静かに雨が降る。少しずつ体温が奪われる。冷たいはずなのに、だんだん感覚がなくなってゆく。
「……」
 頬を伝う暖かいもの。それは雨ではない。けれど…それを拭うこともしないままに、少女は雨に打たれている。
『泣けばいいってもんじゃないだろう』
 そう言われたのは…いつのことだったろう。無力な自分が、守られるだけの自分が悔しくて、悲しくて、泣いていた少女に彼が
かけた言葉。

『おまえが自分でできることをすればいい』
 そうも言ってくれた。なのに…今、彼はいない。少女の涙の原因となって。
「誰でもいいから、嘘…だって言ってよ……」
 呟いて、アンジェリークは涙をこぼす。突きつけられた現実はあまりにも重すぎて。仲間として、信じていたはずの青年が敵と
して存在することが。まだ信じられない、信じたくない……。なのに…それを誰も否定する人はいない。現実として受けとめろ…
と、戦え…と誰もが言う。

「アリオス……」
 冷たい雨に濡れ切った身体は重くて、動かない。動けない。身体中の熱が奪われてゆく。いっそ…このまま雨に溶けてしまい
たい。

「何をしている……」
 その声に振り返る。そこには雨に打たれた漆黒をまとう青年の姿。金と緑の瞳はどこか不安定な色。今の少女と同じように。
「アリオス……」
「アリオスはもういない。我は皇帝……」
「いや、アリオス……」
 泣きながら、首を振る。
「おまえは我を倒すことがこの旅の目的……。そうではなかったのか?」
「ずるいわ…アリオス……」
 彼の言葉は真実。そして、残酷な言葉。何もかもをさらけだせた存在。彼といる時は普通の少女に戻ることができたのに。
重圧も何もかもを忘れられたのに。

「私には…あなたが必要なのに……」
「忘れろ……」
 そう言いながらも青年は天使を抱きしめる。互いに冷え切った身体。抱きしめあっても、身体中の熱は奪われてゆく。
「忘れてくれ……」
「いや……」
 身じろごうとするのを押さえて、青年は少女の唇を塞ぐ。何もかもが冷たいのに、触れあった唇だけが暖かくて。こんなにも
求めあっているのに……。

「泣くな……」
「いや……」
「忘れろ……」
「いや……」
 少女の涙を唇で拭いながら、淡々と青年は少女の背中を撫でる。口調とは裏腹に優しい仕種。
「……これは夢、だ。眠ってしまえば…何もかもを忘れる……」
 そう言うと、青年の唇は魔導の言葉を刻む。
「いや……」
 身じろごうとしても、その言葉は少女の耳に届く。それは眠りを誘う呪文。
「いや…ずるい……」
「愛している」
 その言葉に少女は縛られる。そして…動けなくなってしまう。呪文がその身体に溶けてしまうまでは……。
「愛してるのに……」
 悲しげに少女は青年を見つめる。そして…夢の中に……。
「眠れ……。そして、目覚めれば、おまえの道が現れる……」
 いとおしげに少女を抱き上げて、青年はその目蓋に唇を落とす。
「俺を眠らせてくれ……。おまえにならできる……」
 それは祈りであり、願い。果てしない心の叫び。青年の瞳からこぼれた一筋の雫。それは雨なのか…それとも……。

辛島美登里さんの曲からです。前から書いてみたかったんですよ〜疲れ気味のアンジェとアリオスの話を……。二人に安らかな
眠りが来るのはいつの日なのか……。曲の解説が趣味の部屋にある辛島美登里さんの部屋にあります。

|| <Going my Angel> ||