Come True

 カーテンの隙間から差し込んでくる朝の光に誘われ、アリオスは目を覚ます。窓の外では小鳥たちの囀りが聞こえる。
穏やかで優しい朝が一日の始まりを告げる。
「もう、朝か……」
 自然に誘われて、目を覚ますことを覚えたのはつい最近のこと。穏やな眠りを享受できるようになってからだ。以前の
彼であった頃は、いつでも戦えるように剣を傍に携え、眠りも浅いものだった。
 だが、今、彼がいるこの世界は大いなる愛に包まれていて。彼に穏やかな眠りを与えてくれるようになったのだ。
「ん、……」
 隣で眠るアンジェリークが小さく身じろぐ。起こさないように気をつけながら、その寝顔を覗きこむ。天使の名を与えられた
少女は、この宇宙を導き、見守る至高の存在。宇宙の意思と心を通わせることができる、“女王”。その心も、身体も彼女
一人のものではなく、この宇宙のもの。
 だが、今、こうして、アリオスの側で安らかに眠るのも、アンジェリーク自身に相違ない。アリオスの前だけでは、女王では
なく、ただ一人の普通の少女でいることが、アンジェリークの願いであり、アリオスもまたそういうアンジェリークを大切に思って
いた。
(こんな風に穏やかな眠りを、朝を過ごせるのは、こいつのおかげなんだろうな……)
 この華奢な身体で、この世界のすべてを支える天使。アリオス自身もこの天使の存在に救われた。
「ん、アリオス……?」
 不意にアンジェリークが目を覚ます。だが、目覚め切ってはいないらしく、その瞳はぼんやりとしている。その瞳が目覚めて
映す自分自身の姿に満足していることに内心で苦笑する。
「悪い、起こしたか?」
「ううん……」
 ぼんやりした瞳のまま、首を振る。微かにハスキーな声なのは、昨夜、アリオスに愛されるがままに声をあげた名残。シーツ
から覗く白い素肌にはいくつもの鮮やかな紅い華が散らばったまま。
「もう少し、寝てろ。今日は日の曜日とやらで、執務はないんだろ?」
「ん…でも、起きる……」
 そう言いながら、眠気を覚ますかのように、目をこするアンジェリーク。子猫のに似た仕種の愛らしさに思わず、アリオスは
笑みを零す。
「バカ。眠いのなら、まだ寝てろ」
「ん、駄目。起きるの〜」
 ベッドに寝かせようとするアリオスの手をブンブンと首まで振って、拒否する。そうして、何とか瞳に光が戻る。
「何だよ。大事な用でもあるのか?」
 その言葉に首を振る。そして、どこか恥ずかしそうな表情でこう言った。
「だって、アリオスと過ごせる時間は一秒でも長い方がいいもの……」
「……」
 これは思っても見なかった切り返しで。アリオスとしても、反応に困ってしまう。
「そっか……」
「うん、そうなの……」
 互いに気恥ずかしくてさ迷わせた視線が視線が不意に絡み合う。
 一瞬の沈黙。そして、互いにクスクスと笑いあう。何気ない、こんな他愛もないことが心を満たし、嬉しくなる。些細なことで
ありながら、限りない幸福の一時。
「じゃ、眠気覚ましに何か持ってきてやるよ」
 ハスキーな声もなかなかにそそられはするが、やはりいつもの声がいい。そう思い、ベッドから、離れようとすると、アンジェ
リークがアリオスの腕を掴む。
「何だよ?」
 怪訝そうな顔をするアリオスの首に腕を回す。そして……。
「……」
 柔らかな唇がアリオスのそれに軽く触れる。
「えっとね、おはようのキスがまだだったでしょう?」
 悪戯っぽく微笑んで、アンジェリークは瞳を閉じる。
「ああ、そうだったな……」
 お返しに与えられるキスはとても甘いもの。幸福な恋人同士の一日の始まりには必然なのかもしれない。
「おはよう」
 ようやくかわされた朝の挨拶の言葉。そんなことで感じる、当たり前だけれど、二人には大切な儀式。
 恋人たちの休日はこうして始まるのであった。

林原めぐみさんの初期の曲。辛島美登里さんが提供した曲なの〜。久々に聞いたら、書いてみたくなりました。

|| <Going my Angel> ||