Calling


「おまえは昔っから、自分でこうと決めたら、最後までひかないからな」
 ヴィクトールのその言葉に、アンジェリークは苦笑する。女王試験は二人にとっては懐かしい思い出。負けん気が強い分、熱心な
生徒を抱え、マイペースだったセイラン以外の教官二人は随分学習の面倒を見たものだ。は

「もう、ヴィクトール様ってば。私、もうちゃんと女王してるんですよ」
「それはわかっているさ。だがな、それでもおまえは俺の可愛い生徒だぞ」
 パフッと大きな掌が少女の頭を撫でる。それはさながら、小さな女の子をよしよし、とするように。
「ヴィクトール様ってば〜」
「おまえ自身が一番大変だろうに、それを見せないところはすごいな。もちろん、陛下もだが。無理はするなよ」
 謎の声に導かれ、訪れた世界。そして、知ったさまざまな驚愕する出来事。アルカディアと金の髪の女王が名付けたこの地を育成
するのが少女に担わされた役割。そして、同じように導かれた守護聖や教官、協力者は彼女のためにできるだけの協力をしている。

「大丈夫です。だって、私は一人じゃありませんから。陛下や、ロザリア様、皆様や、レイチェルがいます。そして、私の宇宙にはアル
フォンシアが待ってますから」

 そして…今ここにいる大切なあの人が。その言葉は告げることはなかったけれど。今はまだ、その存在は明かせない。けれど、その
人がいるから、アンジェリークはまた頑張れる。特別の意味で、特別な存在として、大切な人。

「だから、頑張れるんです」
 小さくガッツポーズして、笑顔を見せる。けっして作り物ではない本物の笑顔。そう認識して、ヴィクトールも笑みを見せる。
「よし、その意気だ」
 ますます頭を撫でるヴィクトール。
「もう、ヴィクトール様ってば〜」
 それは平日の天使の広場で繰り広げられた光景。端から見れば、随分年の離れたカップルのじゃれあいに見えたのかも知れない。
それは見ている者の心を和ませる、ほのぼのとした風景。

 だが、それは彼にとってはそうではなかった。
(ふぅん……)
 銀色の髪と異彩を放つ金と緑の瞳が印象的な青年は、元々が人目を魅く端正なルックスと言うこともあり、人目を避けるという意味で、
人通りの多いこの場所を好まない。自分のことが万が一知られたら、少女と会えなくなる。それが理由だ。

(そりゃ…あいつは女王だからな、いろんな人間と接する立場だよな……)
 頭ではわかっていること。だが、心は納得するはずがない。自分の知らない表情をしている少女に…というより、させている相手に
腹が立つ。その存在に触れることを許されるのは、他の誰でもなく、彼自身なのだ。触れることをためらい、諦めた彼に、それでも手を
さしのべたのは紛れもなく天使なのだ。だから、少女はその責任を取る必要がある。へ理屈だろうが、何だろうが、関係ない。

「チッ……」
 軽く舌打ちをすると、青年は天使の広場を後にした。

 そして、日の曜日が訪れる。アンジェリークは約束の地に行くとレイチェルに告げると、かの人が待つ場所に向かう。
「アリオス!」
「……」
 にこやかに声をかけるが、どこか不機嫌そうな瞳で見つめられる。
「何の用だよ」
「何の用って……。貴方に会いに来たんじゃない」
「俺なんかに会うより、他に会うべき奴がいるんじゃないのか?」
「……何よ、それ」
 アリオスの言いたいことが分からない。こんなふうに絡んでくることなどなかったのに。
「私…日の曜日は貴方と一日を過ごしたいの。だから、来たんだよ? 迷惑…なの?」
 上目遣いで見上げてくる瞳は微かに揺れていて。
「俺以外の奴とも過ごしたほうが有意義なんじゃないかって言ってんだよ。あのおっさんとかな……」
「おっさんって……。ヴィクトール様のこと?」
 アンジェリークにとっては尊敬する教官だ。だが、そのアリオスの言葉でアンジェリークはあることに思い至る。
(もしかして、この間のを見られたとか……)
 思い当たることといえば、それくらいしかない。最近は日の曜日はアリオスと会う時間に費やしていたし、普段は育成や学習などで、
平日に個人的に守護聖や教官と会うことはしないのだ。(個人的に、金の髪の女王とお茶などはしているが)

(妬いてくれてるの…かな……)
 理不尽な態度にはちょっと戸惑うけれど。もし、そう言う意味でなら、何となく嬉しい。好きなのは自分だけ…そんな不安もなきにしも
あらず。いつ、また、どこかに行ってしまうのではないかという恐怖。いつも彼は少女の手を擦り抜けてしまうから。

「……あのね、アリオス。こっち向いて!」
 そう言って、強引にアリオスの手を取って、振り向かせる。
「何だよ……」
 突然の行動に戸惑うアリオスのジャケットの襟を掴んで、引っ張る。当然、アリオスは前屈みになる。そして、背伸びをして……。
「……」
 唇に柔らかく触れる感触。微かに震えている少女の目蓋。
「アリオスだけなんだから……」
 唇が離れると、真っ赤な顔でアンジェリークはアリオスを見上げる。
「私がキスしたいって…思う人は……」
 微かな声。けれど、アリオスの耳にはっきりと届く。アンジェリークはアリオスの手を掴み、自分の胸に当てさせる。
(こいつ…自分が何やってるかって、自覚がねぇな……)
 思っていた以上に柔らかな膨らみに触れさせられて、動揺しないはずがない。もっとも、顔に出すことはないが。
「一緒にいて…ドキドキする人もアリオスだけだよ? 感じるでしょ、私の鼓動」
 柔らかな膨らみの奥で息づく鼓動。トクン、トクン、と刻む命のリズム。微かに早鐘になっている。
「ああ…そうだな……」
 少女の行動の意味するところはわかっている。自分の大人げない感情を感じ取り、少女なりに自分の心を伝えようとしているのだ、
と。本当は分かり切っていること。ただ、感情がセーブできない子供の自分がいること。それを少女に伝えることはまだしないけれど。

「……随分、大胆だな?」
「エ?」
 言われて気づく、自分の行動のうかつさ。慌てて、手を外そうとするが、今度はアリオスの手が離れてくれない。
「ちょ、ちょっと、アリオス……?」
 思いっきり嫌な予感。ニッコリ、という表現が似合うほど、上機嫌にアリオスが微笑んでいて。
「やっぱり、期待には応えてやらないとな」
 答えなくていい! そう言おうとした唇はアリオスに塞がれてしまう。軽くついばむように、何度も繰り返して。生暖かい舌が唇を
嘗めると、戸惑ったように微かに開く。その隙間を縫って、入り込んできたものは口内を自在に動き回り、アンジェリークを確実に
追いつめる。

 胸に置いていた手はその柔らかさを確かめるように何度も動いて。布の上からでも、その動きに反応して、硬さをましてゆく胸の
つぼみを何度も掠めて。

「やだぁ……」
 ワンピースの裾から、入り込んでくる指先にアンジェリークは必死に首を振る。こんな明るい場所で、こんなふうに乱されるなんて、
とても耐えられない。もしも、誰かに見られたら……。

「やだって…このまま放っておいていいのか?」
 ツ…と、指先が内腿をなぞりながら、少しずつ上がってくる。そんな動きにすら、ゾクゾクする。
「あ……」
 布の上から触れてくる指先に立っていられなくなって、アリオスの服を必死に掴む。
「お願い…ここじゃ、嫌……」
「了解」
 アンジェリークを抱き上げ、約束の地から行ける林につれてゆく。林の奥の人の来ない場所にアンジェリークを横たえる。
「や…服、汚れる……」
「注文がうるさいお姫様だな」
 そう言いながら、自分のジャケットを脱ぎ、少女の下に敷く。もっとも、少女のからだから、すぐにまとっているものは奪われるのだが。
「や…見ないで、恥ずかしい……」
「こんなに奇麗なのに、見ないバカがどこにいるんだよ」
 木漏れ日が差し込む空間で見る少女の肢体は透き通るように白く、輝きにあふれて。それが、自分の色に染められつつある。
それは何よりの彼にとっての誇り。

「あ…ぁ……」
 胸のつぼみを片方は口で、もう片方はアリオスの指にそれぞれ思い思いに触れられて。そのたびに身体が大きく跳ね上がる。
「アリオス……!」
 濡れた音が嫌でも聞こえてくる。恥ずかしいのに、それでも、受け入れている自分。それはアリオスが、好きな人がもたらしてくれる
ものだから。

「お願い…もう、楽になりたい……」
 身体の中の熱が高まってばかりで、解放できない。それができるのはアリオスだけ。だから、必死にアリオスにすがりつく。
「ああ…そうだな……」
 大きな手に足が開かれる。熱が入り込んでくる感覚にアンジェリークは息を呑む。ゆっくりと入り込んでくる感覚に身を固くする。
「力…抜いてろ……」
 なだめるような口づけに意識を奪われ、少しずつ力が抜けてゆく。自分の中にあるアリオスという存在。熱く激しい情熱。
「あ…あぁ……」
 何も考えられなくなる。翻弄される。それは彼に恋しているときのように。いつだって、翻弄されてしまうのだ。
「アリオス、っっ!」
 だから、必死にしがみつく。そうすることでしか、少しでも彼の近くにいたい。それが少女の願いだから。
「んっ、あっっ!」
 上ってゆく、頂点まで。アリオスのもたらす熱が少女を上昇させてゆく。そして、上り詰めた瞬間……。
「ア…リオス……」
 フワリ…と、ゆっくりと意識が遠のいてゆく。あとは深い闇の中に落ちて行くだけ。それは絶望の闇ではなく、心地よい暖かなもので
あった……。


 気がつくと、すっかり夕方。アンジェリークのみは清められており、服もきちんと着せられている。アリオスに膝枕してもらっている
状態であった。

「アリオス?」
「何だ?」
「もう…嫉妬しないてね。私が好きなのは…アリオスだけなんだから」
「……」
 可愛い言葉につい噴き出してしまう。
「何よ、私は本気で言ってるんだから!」
「わかってる」
 そう…本当は分かり切っていること。少女が言うまでもない。それ以上なにか言いたげな少女の唇を塞いで、有耶無耶にしてしまう。
きっと、これからも嫉妬はするだろう。そのたびに、きっとこうして確かめてしまうであろう自分に、アリオスは内心で苦笑した。

アリオス限定キリ番、25279番をふまれたまどか様からのリクエストです。はい、裏です。ごめんね、お姉ちゃんの期待に添えなくて……。