奇跡の起こった日の夜に
突然、大空に広がった光の芸術。常春とも言えるこのアルカディアの気候ではありえないもの。
「あれはオーロラだわ……」
呆然とそれを見つめるアンジェリーク。
「私…アリオスとオーロラを見たかったの……」
少女の言葉で思い出した約束。この気候の中ではありえない光景。けれど、現実に光の芸術は二人の前にある。果たせなかった
あの時の約束が今、こうして叶えられることに、戸惑いながらも、少女は喜びを隠せない。
「あぁ、そうだったな……」
アリオスもオーロラに目を奪われる。オーロラを見るのは初めてではなかった。けれど、これほど美しいものだとは知らなかった。
彼の記憶の中に残る光景は冷たいだけのもの。彼が見たことのあるものよりも、ずっと美しく感じられた。
もっとも、それを素直にこの少女に告げることはなく。からかうことで終わってしまったのだが。
アルカディアの夜はとても穏やかで静かなもの。星の光が降り注ぐ、そんな音まで聞こえてきそうな気がする。
金の髪の女王、アンジェリークは一人、瞳を閉じて、空を見上げている。それはまるで、星の声を聞くかのように、祈りを捧げてる
かのように……。
「女がこんな夜に一人出歩いてて、平気なのか? まして、アンタは女王だろ?」
その言葉にゆっくりとアンジェリークは振り返る。そこには銀髪の青年の姿。
「大丈夫よ。今は一人じゃないもの」
にっこりと笑顔で答える少女に言葉を一瞬失ってしまう。
「……あんた、俺の存在を知っていたんだな」
「あら、何のことかしら?」
青年の言葉にクスクスと金の髪の女王は笑う。
「オーロラを見せたのも、アンタだろ? こんなことができるのはアンタしかいねぇからな」
「あの子が見たかっていたのを知っていたから。今日の気候がちょうどオーロラが発生する条件に近かったのよ。別にあなたと一緒
だったからじゃないわ」
「……」
どこまでが本当のことか。本当は何もかも知っているのかも知れない。
「俺をあいつに近づけて、よく止める気にならないな」
転生したとは言え、かつての罪人である。まして、以前の記憶を持っているのだ。普通の神経ならば、近づけたりはしない。光の
守護聖あたりなら、そうするだろう。
「どうして、そうする必要があるの?」
「え……?」
思ってもいない言葉に、アリオスは戸惑うしかない。反対に金の髪の女王はクスクスと笑っていて。
「だって…あなたと私は初対面じゃない。私は“アリオス”って人と、会うのは初めてだもの」
「……!」
意外な切り返しである。
「つまりはそういうこと。あなたと私は初対面だし、このアルカディアで出会ったあなたと一緒にいることで、あの子の心が満たされて、
幸せなら、それでいいの。幸福でない女王に幸福な世界は作れないわ」
「……大した女だな、アンタは」
見た目はフワフワとあどけない印象の少女。下手すると、彼の愛しい女王よりも年下に見えると言うのに。
「だから…あの子をもう二度と悲しませないでね。嬉しい涙はいくらでも流してもいい。でも、悲しい涙は……」
「誰が泣かせるかよ」
そう…決めたのだ。記憶のなかった時に泣きそうになりながらも、自分を気遣ってくれていた。記憶を取り戻し、去っていこうとした
自分を止め、ともにいることを望んでくれた少女を。もう二度と、手離すはずがない。
「あの子をよろしくね」
「言われなくてもわかってるさ。女王陛下」
軽い口調で、恭しく礼の形をとる。その後、二人クスクスと笑いあって。
「送ってってやるぜ。オンナ一人じゃ危ないからな」
「そうね。お願いするわ。剣士様」
「女王陛下のお心のままに……」
奇跡のようにオーロラが見えた日の夜。こんなことがあってもいいのかも知れない。そう思うことにする。傍らにいる金の髪の女王は
ただ穏やかに笑っているだけ。だが、全てを見透かす瞳を持っている。手の平で踊らされているような気もするが、それに甘んじる
気はサラサラないし。
「あの子を悲しませたら、私たち全員を敵に回すって覚えていてね」
サラリ…と甘い口調で釘を刺されたことに、苦笑しつつ、
「覚えていてやるぜ」
と、答えるしかない。そんなアリオスに金の髪の天使は満足そうに微笑んだ。
実はあのオーロラはリモージュが見せてくれたんじゃないか…と思ったのです。リモージュなら、気づいてそうだし。あ、うちのリモージュは
アリオスとは初対面と言いきれます。だから、誰も逆らえません(笑)
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