アリア


 アリオスがその歌声を始めて聞いたのは、新宇宙に来てからすぐのことだった。
 聖獣であるアルフォンシアを従えて、歌うのはアリア。伸びやかで透明な声が広がってゆく。空気を震わせ、染みとおってゆく歌声。新宇宙に生きる全てのものへと贈るもの。
 歌っている時のアンジェリークの表情はアリオスの知るどのアンジェリークのものでもない。あえて言うのなら、女王の表情だ。半身である聖獣アルフォンシアとともに、新宇宙の全てのものに、祝福を与えている。
 それは命への祝福であり、喜びの全てを歌に変えて。空気を震わせて、宇宙に生きる全てのものへと捧げる祈り。
(天使の歌声…か……)
 この歌声を受けるものは幸せだろうとアリオスは思う。命あるものへの賛歌。生まれてきた全ての者たちに、愛されていると信じさせられるだけの力を持つ歌声だ。
 アンジェリークはこうして歌っていることを誰にも教えていない。気づいているのはおそらく、自分だけだろう。誰にも知られない次官にこっそりと宮殿を抜け出して、アンジェリークはいつも歌う。多分、アンジェリークの歌声に安らぎをもたらされていて、それに気づいていないのだろう。 天使の歌声を享受して、優しい眠りに落ちる。確かにそれは悪くないことだろう。きっと、誰もが幸福な夢を見るはずだ。だが、アンジェリーク自身はどんな夢を見るのだろう。そう思い始めたのはアンジェリークが歌うことを知った時からだった。
 宇宙を創世し、その宇宙を育み、未来へとつなげてゆく。万物の生きとし生けるものに愛を与える存在である女王。だが、その女王には誰が愛を与えるのか。アンジェリークは笑う。自分は幸せだと。大切な人たちが自分を支えてくれる。だから、それで幸せなのだ、と。
『幸福でない女王では本当の幸福な世界は作れないわ』
 金の髪の女王はそう言って、笑っていた。その笑顔もやはり幸福なもので。アンジェリークの笑顔と同じ、だ。孤独に陥りかねないその存在を支える存在があるからこそ、女王は幸福であるのだと。
 自分はアンジェリークにとってそういう存在ではあるのだろう。いや、そうでなければならないはずで。守られるだけの存在にはなりたくない。自分に宿った力はアンジェリークを守るためにあるはずなのだから。
 この宇宙に広がる天使の歌声を守ることもできるのだ。天使がその清らかな心のままに歌う歌声を、いつまでも響かせることのできるように。
 やがて訪れる未来の宇宙の危機に、過去の自分たちの支えになるように、未来の女王の助力にと天使は歌う。この宇宙に転生して、記憶を無くした状態でも不思議と不安ではなかったのはそのせいなのかもしれない。
 歌声という形で、天使の愛に包まれて、強くあれるのなら。この歌声を守る存在に。アリオスは剣にそっと口付けて、天使の歌声を聞いていた。



今日の1シーンで、だいぶ前に書いた話です。しっとりとした話を書きたかったんだと思います。

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