レヴィアスの機嫌が悪い……、そのことで彼の部下達は非常に怯えていた。原因は至って簡単なことで。彼の親族たちが
色々と彼に取り入ろうとしているからだ。
 元々、親戚とは色々とうまくいっておらず、独りの力で今の財力を作り上げたこともあり、どうひいき目に見ても、ハイエナ
以上には見えないのだ。
「触らぬ何とやらだな……」
「若しくは、君子危きに何とやら、だな」
 結局、誰もが我が身が可愛いのだ。
「あ、あの。お客様はかえったの……?」
 腕に小さな天使、アンジェリークを抱き抱えたルノーが入って来た。純粋培養そのもののルノーと小さな天使に大人の汚い
部分を見せるのは忍びなくて。外で遊ばせていたのだ。
「ねぇ、もしかして、アンジェリークなら大丈夫じゃないかな……」
 ジョヴァンニの言葉に視線は小さな天使に集中する。何も知らない小さな天使はきょとんと小首を傾げた。


 コンコン。自室の部屋を遠慮がちにノックする音。
「誰だ」
 どう聞いても、機嫌が悪いとしか解釈できない声。無能な癖に権利意識や他人の力を自分の力だと思いがちの人間は彼の
もっとも嫌うところの人間で。その相手をしていたのだから。
「ル、ルノーです。あ、あの。お、お茶をお持ちしました」
「勝手に置いていけ」
「は、はい……」
 いつもより鋭い声に怯えながらも、扉を開けてルノーが入って来る。
「サイドテーブルに置いておけ」
「わ、わかりました」
 振り返りもせずに告げる。だが、返事の良さとは裏腹になかなかお茶は来ない。カチャカチャと食器同士がぶつかる音まで
する。
「おい、何をグズグズしている……」
 そう苛立って振り向いて、レヴィアスは言葉を失った。メイド服に身を包んだ小さな天使がティーカップを載せたトレーを持って
宙に浮かんでいたのだ。その後ろではルノーが心配そうについている。
「アンジェリーク……」
 いつもなら、パタパタ飛び回る羽根はお茶を零さないように慎重な動きになっている。
「アンジェリーク、もういい。すまぬ」
 そう言って、レヴィアスがカップを受け取ろうとするが、アンジェリークは強く首を振る。やがて、サイドテーブルまでたどり着くと、
満面の笑みでレヴィアスに振り返った。
「どういうことなのだ……」
 できるだけ声を荒げないように努める。ルノーを気づかってではなく、アンジェリークがルノーを心配してしまうからだ。
「あ、レ、レヴィアス様がお元気ないみたいだから、ア、アンジェリークなら元気が出るって……」
「何故、この恰好だ……」
 何の冗談か黒に白のエプロンのメイド服。ご丁寧にペチコートまで。今はレヴィアスの膝の上で寛いでいる。
「よ、よくわからないけど、お、大人は、そ、それが嬉しいって……」
「誰が言った……」
 だいたいの想像は着くが、一応は聞いて見る。
「あ、あの、ジョヴァンニ……」
「やはり、な……」
 想像通りの答えにレヴィアスはどう処遇をしようか考える。
「で、でも、可愛いですよね?」
「……」
 確かに可愛いのだが。それを素直に認めるべきなのが。
「……」
 クイッと袖を引かれる。小首を傾げて『かわいくない?』と聞いて来る。
「可愛いに決まっている……」
「♪」
 にっこりと満面の笑顔になる。どうして、この笑顔に逆らえるだろう。


 その後、メイド服姿をした小さな天使が時折屋敷を飛び回るようになったのは言うまでもない。

ある人に見せた話。しかし、ジョヴァンニは一体……。


‖<Angel Days>‖