小さな天使が朝、目が覚ますと、そこはアリオスの車の中だった。
「起きたか?」
「……?」
 状況がつかめず、ぼんやりしていると、アリオスに抱き抱えられて外に出された。空気がいつもより冷たい。
「……!」
 辺り一面、真っ白な光景に小さな天使は大きな瞳をさらに大きく開けた。
「……」
 雪は知っている。空から降って来るものだと。けれど、都会では雪はめったに積もらないし、積もったとしても、こんなに綺麗な光景にはならない。
「びっくりしてるようだな……」
 久々にまとまった休暇が取れたので、小さな天使に雪を見せてやろうと思い、職場の保養施設である別荘を借り、天使が寝ている間に連れて来たのだが、作戦は成功だったようだ。
「ほら」
 アリオスの腕から離されて、ぱたぱたと小さな天使は雪原に舞い降りる。
「……」
 こわごわと触れてみると、それは冷たくて柔らかかった。手を当ててから離すと、雪原に小さな紅葉が出来上がる。
「♪」
 それが気に入ったのか、小さな天使は何度も雪原に紅葉を作り始めた。その様子を見て、アリオスは小さな天使に声を掛けた。
「アンジェ、ちまちましてねえで、こうした方が気持ちいいぜ」
 そう言って、アリオスは背中から雪にダイブする。まだ、降り積もったばかりの柔らかな雪はそれを柔らかく受け止めた。
「気持ちいいな!」
「……」
 珍しく、子供みたいなアリオスの姿に、小さな天使もやってみる気になったらしい。背中には羽があるため、正面からダイブした。
 ズボッ! 柔らかな雪に受け止められる。そこまではよかった。だが、柔らかな雪に深々と埋もれてしまい、身動きがまったく取れなくなってしまったのだ。アリオスのような成人男性なら、すぐに雪から離れられるが、小さな天使ではそれもうまくいかない。
「〜」
「おい、アンジェ?」
 小さな羽をバタバタさせているのが、尋常ではないと気付いたのだろう。慌てて起き上がり、小さな天使を回収した。
「〜」
 雪塗れになった小さな天使は恨みがましい目でアリオスを見上げて来る。
「わかった、俺が悪かったよ」
 雪を払ってやりながら、アリオスは苦笑する。この小さな天使は自分がやっぱり守ってやらなければならないのだ、と。
「暖かいココアをいれてやるからな」
 そう言ってやると、小さな天使はふるふると首を振って、ぎゅっとアリオスにしがみついた。その可愛くも、健気な姿にアリオスは浮かんで来る愛しさからの笑みを抑えられなかった。

これ、バレンタイン前に書いたんで、このころはまだ寒かったんです……。


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