レモンは疲労回復にちょうどいい果物である。連日、急患が続き、休息もままならないアリオスはよくこれをかじっていた。
「よくレモンをそのままかじれるな。蜂蜜につけて食えばいいのに」
 同僚であるカティスの言葉にアリオスは嫌そうに眉を顰めた。
「冗談じゃねえ、んな甘ったるいもん食えるかよ」
「栄養的にはいいんだがな?」
「食わねえよ」
 きっぱりと言い切ると、アリオスはレモンを再びかじった。


 仕事を終えると、一目散に我が家へ向かう。家に着く前に電話を鳴らして、帰宅の合図も忘れずに。
「ただいま、アンジェ」
「♪」
 玄関を開けると、小さな天使がぱたぱたと飛んで来て、ぎゅっと抱き付いて来る。
「いい子にしてたか?」
「♪」
 聞くまでもないことではあるが、小さな天使はこくこくと頷く。
「そっか、いい子だな」
 そう言って、アリオスが小さな天使の頭を撫でてやろうとした途端、小さな天使は小首を傾げた。
「?」
「どうした?」
 戸惑うアリオスに対し、小さな天使はくんくんとアリオスの指を嗅いで来る。
「ああ、レモンの臭いが指に付いたか……」
 甘いもので構成されている小さな天使の食生活には無縁の物。知らない香りに興味を持ったのだろう。
「香りの正体はこれだ」
 そう言って、アリオスがレモンを取り出すと、小さな天使はしげしげとそれを見つめる。
「待ってな」
 小さな天使を抱えたまま、アリオスはキッチンに行くと、レモンを半分に切ると、天使の鼻先に近付けた。
「……」
 より強くなったレモンの香りに小さな天使はペロリと切り口を舐めた。
「〜!」
「酸っぱいだろうな……」
 いやいやと首を振る小さな天使は恨みがましい目でアリオスを見上げてくる。
「美味いんだがな……。お前にはこうした方がいいな」
 そう言うと、アリオスは小さな天使専用のコップにレモンを絞り、たくさんの砂糖を入れ、水を注ぐ。仕上げに氷を浮かべた。
「これだったら、大丈夫だろ?」
「……」
 疑いのまなざしを向けつつも、ペロリと舐める。
「♪」
 レモンの酸っぱさは砂糖の甘さに緩和されて美味しくなっている。こくこくと飲む小さな天使。
(今度は蜂蜜レモンにしてやろう……)
 砂糖よりも蜂蜜の方が栄養的にはいい。自分のことはどうでもいいが、天使のためなら話は別である。


 やがて、キッチンにレモンと蜂蜜が常備されているようになったことは言うまでもない。

ハチミツレモンは天使も気に入るかな?


‖<BACK>‖