天使のキス


 思えば、アンジェリークがアリオスのそんな姿を見たのは初めてかもしれない。

 毎週、火の曜日と木の曜日の午後。“約束の地”を訪れるのが彼女の習慣。誰にも言えないけれど、彼女にとって大切なものが
そこにあったから。

「あ、いた♪」
 約束の地にある草原の大樹。そこが彼の指定席。だが、彼はアンジェリークに反応する事はなかった。
「寝てる……」
 木にもたれて、眠っている青年を不思議そうにアンジェリークは見つめる。待ってるうちに眠ってしまったのか…と思い、膝をついて、
のぞきこむ。

(こんな風に無防備なアリオスの姿って、初めて……)
 あの戦いの日々の中では、いつも自分は彼に守ってもらう立場だったから。何度、自分の甘さを指摘されただろう。だからだろうか。
いつもと逆の感じがして、なんだかくすぐったい。

(寝ちゃうと意外と可愛いかも)
 クスリ…と笑って、アンジェリークはそっとアリオスの頬に手を伸ばす。それは無意識の行動。だが――。
「キャッッ」
 グイッと腕をひかれる。気がついたら、アリオスの腕の中に閉じ込められていて。
「いくら俺の寝顔に惚れなおしたからと言って、手を出すんじゃねぇよ」
「だ、誰が!」
 自分を抱きしめ、楽しそうなアリオスにアンジェリークは抗議の声をあげる。「なんで起きてるのよ〜」
「お前の気配を感じたんだよ。目覚めのキスを待っていたんだがな、女王陛下?」
「バカ…それは王子さまの役目じゃない……」
 すっかりパニックに陥り、真っ赤になって、顔を背けるアンジェリーク。だが、アリオスはその顎を捕らえて、自分の方に向かせる。
「今からでも、遅くはないぜ?」
「……」
 ゾクリ…とするような声。金と緑の瞳に魅入られたようにアンジェリークはアリオスの首に自分の腕を回す。ゆっくり近づいてきて、
もたらされる天使の口づけ。触れるだけのそれは、それでも天使からのものだから。

「上出来」
 真っ赤になってうつむく天使を再び上向かせて、アリオスは御褒美のキスを贈った。

冬コミで配ったペーパーの小説に少しだけ加筆修正を加えたものです。たまにはこういうのもね……。

|| <Going my Angel> ||