テディベア

 実家に立ち寄った際に、自分が使っていた部屋のテーブルに鎮座していたテディベアに一哉は目を留めた。小さい頃に与えられたものだったが、子供らしくない子供だった一哉にそれを遊んだ記憶はない。抱き上げると、太陽の匂いがする。こまめに日に当てられているらしい。
「持って帰ったら、喜ぶ、か?」
 そう呟いて、一哉はつぶらな瞳のそれを手に取った。



「むぎ、土産だ」
「わぁ、くまさん〜」
 テディベアを渡すと、思った以上に幼子は喜んでくれた。
「それ、一哉のかい? シュタイフ製だね?」
「ああ、生まれた時にお袋の友人がくれたらしい」
「でも、あまり遊んでなかったようだね。新品のように綺麗だ」
「まぁな」
 依織の指摘を一哉は気にすることもない。
「おにいちゃんがうまれたときのなの? じゃあ、くまさんもむぎのおにいちゃん♪」
 二人の会話を聞いて、キャッキャッとはしゃぐ幼子。自分がむぎの年にはぬいぐるみには見向きもしなかった。性差もあるだろうが、こんな風に子供らしい子供ではなかったのだ。
「くまさん、むぎなの。なかよくしようね」
 まるで、生き物のように話しかけるその姿に何となく切ない気分になった。


 数日もすれば、テディベアはすっかり幼子のお供と化してしまっていた。一緒に家の中を探検したり、おしゃべりやおままごと、一緒のお昼寝。
「すっかりお気に入りだね」
 依織がくすくす笑う。
「かずやおにいちゃん!」
 テディベアを手にした幼子が一哉の元にやってくる。
「あのね、むぎ、くまさんとおはなししてたの」
「そうなのか?」
 お話といっても、幼子が話しかけてるだけのようなきがするが、小さい子供はそれで会話が成立するらしい。
「あのね、むぎがかずやおにいちゃんのことすきっていったら、くまさんもかずやおにいちゃんのことがすきだって」
「……そうか」
 無邪気な言葉に一哉は何とも言えない気持ちになる。ずっと放りっぱなしにしていたぬいぐるみである。心があるなら、そう思うはずはないけれど。幼子がそう言ってくれるなら、とは思う。幼子が一哉に対しての好意をそのまま鏡のように映しているのだから。
「ふふ、役得だね、一哉……」
「そうですかね……」
 どこか楽しそうな依織の表情に思うところがないわけではなかったが、それでも悪い気はしない一哉であった。

…あ、あの。一哉、不憫じゃないですよね? 間違ってませんよね? もう、それだけが不安ですorz
(ドンだけ、不憫な一哉を書いてるんだ、私……orz)