木の下で



「――やっと、俺は自分のために笑える」
 そう言って微笑む青年の表情は、少女が見たこともないほど穏やかなものだった。
「…アリ、オス……」
 その笑顔に見惚れた少女に青年の次の行動を予測できるはずもなく、あっけなく唇が塞がれた。初めはその存在を確かめる
ように、そっと触れるだけ。やがてそれはすべてをからめとるように深くなっていく。

「――悪いな」
 離れた唇が呟いた。
「――?]
 アンジェリークがうっすらと目蓋を持ち上げると、潤んだ視界に間近で困ったように苦笑を浮かべているアリオスの姿が映った。
「今日はそのつもりなかったんだかな」

 ニヤリ、と唇を歪める。
 金と銀の妖眸をおもしろそうに輝かせ、いつもの彼がそこにいた。
「気が変わった」
「……んっっ」
 何の、と聞く暇などまったく与えられず、再び唇を塞がれる。
 もっともそれもすぐにわかるのだから、聞いても聞かなくても大した違いはなかったのかも知れない。

「……や、だっ、アリ…オス…ッッ」
 何の心の準備もないまま施されるその行為に、息を乱しながら、それでも抗議の声を上げる。
 初めて、というわけではない。
 旅をしていた時、何度か肌を重ねた。
 けれど、それは−−閉ざされた空間の、闇の中でのみ、だ。
 こんな明るい空の下でなど、受け入れる気持ちよりも以降のほうが大きい。
 羞恥に身をよじり、何とか逃れようとしても、その地に一本しかない大樹に体を押さえつけられ、身動きが取れない。
 肌蹴られた肩口に触れる、冴えた唇。
 少女の抗議などまったく意に返さず、アリオスはあくまでもマイペースに彼女の中の熱を呼び覚ましていく。
 布越しに少女の柔らかな膨らみに触れる。
 それだけでぴくりと身体を震わせる彼女に、満足そうにうっすらと笑みを浮かべ、アリオスは羞恥に淡く染まる耳元に唇を寄せた。
「かわいいぜ、アンジェ」
「……あ……」
 入り込んでくる甘いといかに、思わずかすれた声が漏れる。
 耳たぶに軽く歯を当てられると、それだけで意識が白くなる。
「……アリ、オス……」
 わずかに震える、甘くかすれた声に彼は愛撫を一時中断して、アンジェリークへ視線を向けた。
 のぞき込んだ海色の瞳には、控え目ながらも欲望が煙っている。
 それに気づき、アリオスは唇を歪める。
「――どうした?」
 それに気づきながらそう問いかけるのは、自分を求める少女の声が聞いてみたいから。
 声に促されたのか、白く華奢な腕が彼へと伸ばされる。
 おずおずと近づいてきた小さな唇が、そっと触れた。
 初めてなわけでもないのにあまりにも幼い、少女らしい口づけに思わず笑みがこぼれる。
 離れていこうとするアンジェリークの栗色の髪に手を差しこみ、ぐっと力を入れた。
 唇を割って舌を入れ、からませると、戸惑いながらもアンジェリクのそれに応えてくれる。
 アリオスは笑みを深め、更に深く、その柔らかな唇を貪った。

 スカートの裾から入りこんだ手が太股をなで上げる感触に、アンジェリークは甘い吐息を漏らした。
 支えるかのようにコしに回された腕は服の上からではあるが、彼女の弱い部分を攻めたてる。
 やがて手はその柔らかさを手しかめるようにゆっくりと滑りながら内股を撫で上げ、薄い布ごしにしなやかな指が花芯へと
触れた。

 途端少女はくんっと顎を反らせ、身体を震わせた。
 素直な反応にアリオスはほくそ笑む。
「……随分、濡れてるじゃないか?」
「……っっ! やだ…っっ!」
 顔を真っ赤に染め上げ、羞恥のために腕から逃れようと身をよじる少女を、対した力も入れずに抑え込み、指の腹で何度も
そこをさすり上げる。

「……ひゃ…あふ……っ、く…ぅんっ」
 からだが密着しているおかげで耳のすぐ横で紡がれる喘ぎに、彼はクッと喉を鳴らした。
「も……っ、やだぁ……っっ」
「何がだ?」
 尋ねてくれる声は余裕に満ちていて、恨めしくなってしまう。
 自分だけがこんな風になってしまって、彼だけが普段と変わらずにいるのは絶対にずるい。
「どうした、アンジェリーク?」
「ん?」と、少女の瞳を覗きこむと、攻めるような視線がアリオスに向けられた。
 もっとも、その視線が更に青年を煽り、嗜虐心と征服欲を高まらせているなどとは彼女は気づかない。
 ある意味、それは幸せなことかもしれないが。
 そのあまりに余裕すぎる態度に、アンジェリークはいたたまれなくなる。
 いつもいつもそうだった。
 出会ってからずっと。
 旅をしていた時も、アルカディアで再会してからも。
 そして――抱かれていた時も。
 青年はいつも面白そうに自分を見ていた。
「どうかしたのか?」
 絶対に『わかっている』顔で彼は問い掛けてくる。
 それが、嫌だった。
「も、やっ! アリオスのばかっ! キライっっ!」
 ギュッと目を閉じ、異色の双眸から逃れようとする。
 だが力の入らない身体ではろくに抗うこともできず、簡単に動きを封じられてしまった。
「何が気に入らないんだよ?」
 耳元に囁かれるそんな声にすら反応してしまう。
 完全に教えこまれてしまっている。
 逃れることなど出来るはずがない。
「……っ、知らないっ!」
 せめてもの抵抗でそう言うと、青年の方がクッと揺れた。
「何だ」
 面白そうに響く声。
「もっとして欲しかったのか?」
「!! ちが……っっ」
 抗議にあげられた声は、突然与えられた刺激に遮られた。
 何のことわりもなく、ぐっと押し込められた指先。
 抵抗するどころか、むしろ迎え入れるような内側の動きに、アリオスは満足そうに唇を歪めた。
「っはぁんっ」
 刺激にのけぞる首筋に身体を屈めて唇を寄せる。
 汗ばんだ肌はまるで吸い付くようだった。
「随分と嬉しそうだな、アンジェリーク」
「そんなコト……っ」
「本当に?」
 クッと笑って中の指を軽く折り曲げる。
 当然のように突きつけられる快楽に、少女は身体を震わせ、嬌声をあげる。
 だが、彼女はそれを認めようとしない。
 頭を左右に振り、否定しようとする。
「ったく、強情なヤツだな」
 しかしだからそこ、オトシがいがあるというものだ。
 ニヤリとい地の悪い笑みを浮かべ、彼はさらに奥へと指を押し込んだ。
「ひゃぁんっ、ふ…や、あっ…んんっっ……」
 敏感な場所休むことなく攻めたてられ、たえまなく甘い声が上がる。
 すでに自力で立つことさえ出来ず、アリオスにしがみつくことでアンジェリークは何とか自分を支えていた。
「……アリ…オス……ッッ」
 すがるように青年の名を呼ぶ。
 どうしようもなく身体が熱い。
 生み出される熱で火傷してしまいそうだった。
「……アリオスッ、もう……っっ」
 切羽詰った声で哀願する。
 今や彼女の花芯は3本もの指を飲み込み、完全に溶けきっていた。
「もう、何だ? 言ってみろよ」
 まったく変わらない涼しい声が先を促す。
「やぁっ、いじわるっ」
「何がだよ」
 ククッと笑い、爪で彼女の感じる場所を軽く引っ掻くと、少女は身体を反らせ甘い悲鳴を上げた。
「お願い……っ、変になっちゃう…」
「だから、どうして欲しいか言ってみろよ」
 しかし、少女は胸に顔をうずめ、首を振る。
 言葉にすることにはまだ抵抗があるようだ。
「仕方ねぇな」
 アリオスは苦笑すると、指をゆっくりと引き抜いた。
 指はすっかり蜜で濡れそぼり、妖しく輝いている。
「見ろ」
 思わず目を反らそうとした彼女に有無を言わさぬ口調で告げる。
 その目の前でゆっくりと蜜を舐めあげる。
 羞恥に頬を染める少女を楽しそうに眺めて、彼は瞳に妖しい光を宿らせた。
 強引に重ねられた唇にはどこか違和感があった。
 その違和感が自らの欲望の片鱗であると気づいた時、アンジェリークは身体をこわばらせた。
 しかし抗う力などある筈もなく、ただ唇を受け止めていた。
 いきなりくるりと身体を返されたのは、その直後だった。
 背にしていたきと、今度は向き合う形で押さえつけられる。
「やだ…っ、何……」
「じっとしてろ」
 戸惑って身を捩ろうとすると、輿を掴まれて動きを封じられた。
 すぐに熱が押し付けられる。
「っっ!」 
 今時分が堂言った格好をしているか自覚して、アンジェリークは気が遠退きかけた。
 それでも必死になって現実にしがみつく。
「……やだ……っ、ちょっと待って……っっ」
 ククっと笑う声は、そんな彼女の反応さえ面白がっていた。
「欲しかったんだろ?」
 その声が届くのと、熱が埋めこまれるのはほぼ同時だった。
 想像以上の圧迫感に息が詰まる。
「……ふ…っう……」
 苦しげなため息が漏れる。
「アンジェ……」
 呼ぶ声に振り向くと、当然のように唇が塞がれた。
 舌を絡めとられ、浅く深く何度も繰り返させる口づけに、意識が奪われかけていた頃。
「ひっ…」
 さらに奥深く、最奥へと熱が突きたてられる。
 最初は確かめるようにゆっくりと、やがてその動きは突き上げられる快楽に煽られて早く激しくなっていく。
「…は…っ、あっん、あっ」
 逃れようにも腰を固定されていては逃れられるはずもなく、突き上げられるたび少女は身体を震わせ嬌声を上げた。
「……やっああっ、アリオス……ッ」
 名を紡ぐその声はひどく甘く、そして淫らで、それがさらに青年を高まらせる。
「わたし…っ、ヘンになっちゃ…っ、ああっ」
「…なっちまえよ、見ててやるから」
 今にも泣き出しそうな少女に、アリオスは平然と返す。
「……いじわるっ」
 少女は涙混じりに非難の声をあげる。 暗闇の中ならいざ知らず、こんな明るい空の下でおかしくなっていく自分など見て
欲しくないのに。

 彼は赦してくれない
 アリオスは少女を攻めたてながら身体を折り曲げると、項に舌を這わせた>
 舌先で首筋を辿り、今だ着たままだった服のファスナーを唇で挟むと、唇で一気に弾き下ろす。
 そのまま背に口づけを落としていくと、新たな刺激にアンジェリークが身体を反らせた。
 白い肌が淡く、艶やかに染まっていく。
 焦点の定まらない瞳がゆらゆらと宙をさ迷い、そして、ギュッと閉じられる。
「……アリ…オス…ッ、アリオス、アリオスッッ」
 幼い子供が親に縋るかのように自分を狂わす男の名を呼ぶ。
 そうする事でしか堪えられそうになかった。
 そして熱の塊が彼女のもっとも奥をまるでえぐるように貫いた瞬間。
 朦朧としていた意識が覚醒し、一気に弾け飛んだ。

 気を失ってしまった少女を抱きかかえ、彼女の部屋へと運びこんだ。
 毎度毎度思う事だが、ここはとことん警備が甘い。
 もっとも、自分には都合がいいが。
 今もすやすやと寝息を立てているアンジェリークを見やり、アリオスは苦笑した。
 目尻に微かに浮かんだ涙をそっと拭ってやる。
「……やりすぎちまったかな」
 言葉とは裏腹の満足げな笑みを唇に刻む。
 慣れていない少女に随分と無理をさせたという自覚もある。
 だが、それでも……そういう自覚を全て入れたとしても、抑え切れなかったのだから仕方ない。
 アンジェリークが聞けば確実に期限を悪くするような事を勝手に結論づけて、アリオスは肩を竦めた。
 そうして、自分が肝心な事をわすれていたことに気づく。
 彼はアンジェリークに視線を向け、しばらく何事か考えたあと、ふぅっと息をついた。
「ま、先は長いんだしな」
 いつか、言えるだろう。
 きっと。
 何よりも大切なコトバを。
 彼は自分の指にしていた指輪を取るとアンジェリークの左手を取り、薬指へとはめた。
 サイズがまったくあっていないが、それもまたいいだろう。
「なくすんじゃねぇぞ」
 クッと喉をならし、額に唇を落とす。
 やがて彼は腰掛けていたベッドから立ちあがると、ドアノブに手をかけた。
 開いたドアのかげから小さく笑いながら、少女へと告げる。
「またな」
 ドアが静かに閉められた。
 
「…ん……?」
 ゆっくりと意識が覚醒する。
 見慣れた天井が視界に飛びこんでくる。
「……あ、れ?」
 言葉を発し、刹那、アンジェリークはベッドから身体を起こした。
 キョロキョロと辺りを見回す。
 どうみてもここは自分の部屋だ。当然、探す人物が見つかるはずがない。
 それだけでたまらなく不安になる。
 それを抑えるようにギュッと手を握り締める。
 と、少女は左手の違和感に気づいた。
「……?」
 恐る恐るそれに目を向けてみると、見覚えのある指輪が薬指で優しく輝いていた。
 数瞬、アンジェリークは惚けたような表情をし、それからぷっと噴き出した。
 左手を握り締め、胸元に引き寄せる。
「……まってるね、アリオス」
 そして少女は幸福そうに微笑んだ。

 トロワ合宿のお礼にと空山樹サンに頂いた創作です。うふふ…いいよね、こういうアリオス……。ありがとうございました。