夕暮れ時、人気の絶えた公園のベンチに、ぼんやりと座っている姿がやけに寂しそうに見えて、はるかは足を止めた。
(……おだんご?)
心持ち俯いている横顔を、はるかはジッと見つめる。
声をかけようか、どうしようか、迷いながら。
(なんだって一人でいるんだろうな、僕らのお姫さまは……?)
いつも一緒にいる彼女の親友であり、かけがえのない仲間たち。その親友たちの姿が見えない。恋人であるはずの地場衛の姿も・・・。
誰かが傍に居る時のあの子は、あんな寂しそうな顔をしない。
月の守護を受ける月の女王は、太陽みたいに笑う。
その笑顔が、はるかはとても好きなのだ。
(あんな顔、させちゃいけない)
いつも笑っていてほしい。
どんな時でも。
それが遙かの、我儘な願いでしかなくても。
あの子に似合うのは、笑顔なのだから。
「どうしたんだ、元気ないな。おだんご」
「! はるかさんっ!」
別に気配を決していたわけではないのに、少女ははるかが近づいて来ていたことに気づいていなかったらしい。びっくりした顔で
はるかを振り仰いだ。
「隣、いい?」
「……はい。どうぞ」
はるかが座れるように、とうさぎは少しだけ端に詰めた。
「珍しく沈んだ顔をして。何かあった? 衛さんと喧嘩でもしちゃったかな?」
顔をのぞき込みながら問いかけると、うさぎは何か言いたそうに唇を動かした。……が、何も言わないまま、ふるふると首を横に
振った。
「喧嘩じゃない? あ、そうか。彼、今は留学中だったっけ?」
はるかがそう口にした途端、うさぎの肩が大きく震えた。
「……淋しいんだ?」
うさぎの様子から簡単に導き出される答え。
からかい半分、心配半分のはるかの言葉に、うさぎは泣き笑いのような表情を浮かべた。
胸を衝かれる表情だった。
「淋しくなんか……ないよ」
強がりと判るその科白に、はるかは返す言葉を持たない。
震えている肩を、抱きしめたい衝動に駆られる。
届かないのに。
うさぎは決してはるかの気持ちには答えないのに。
判りすぎるほど判っている現実に、けれど、愛しい気持ちを抑えることはできない。
こん何も切ない気持ちを、今まで知らずに生きてきた。
「……おだんごは、嘘つきだな」
そういうと、うさぎがゆっくりとはるかを振り返った。
小さく笑う。
「わたしのことそう呼ぶの、はるかさんだけになっちゃった」
「……そう…だっけ?」
「うん。そうだよ。まもちゃんは『うさこ』って呼ぶし。星野は……もういないし」
うさぎの言葉が紡いだ言葉に、はるかは眉根を寄せた。
地場衛が不在だったときにうさぎの心を奪いかけた、気に食わないヤツ。
今でも大嫌いだ。
はるかが望み、できないことを、あっけなく、簡単に実行していたのが一番気に入らない。
うさぎの心を占めた、もう一人の存在。
「はるかさん、星野のこと、そんなに嫌い?」
不思議そうにうさぎが問いかけた。
「大嫌いだね」
即答すると、うさぎの表情が曇った。
「星野、良い人だよ」
「……ボクは好きじゃないんだ」
「どうして?」
はるかの顔を覗き込む少女の不思議そうな表情に、はるかは言葉に詰まった。
どう言おう?
「はるかさん?」
「……嫌いなんだ。……君に近づくヤツが」
本音を口にしたはるかは、うさぎが何か言うより先に立ち上がった。
「はるかさん!?」
歩き出したはるかをあわてて追いかけてくる気配。
はるかは苦しげに眉根を寄せた。
追いかけてきちゃいけない。
歯止めがきかなくなる。
抱きしめて、束縛して、きっと誰の目にも触れないようにしたくなる。
「待って、はるかさん!」
「来るな!」
触れた手を拒絶すると、怯えた眼差しがはるかを見つめていた。
傷ついたように。
「…おだんごには衛さんがいるから」
努力して、はるかは優しい声を出した。
「だから、僕の手を取るんじゃない。……傷つくから……ボクも――君も」
「でも……」
「うさぎ」
初めて、名前を呼んだ。
「一度だけ言わせてくれる? ボクはね、初めて会ったときから、うさぎのこと好きだよ」
変わらない気持ち。
守りたいと本気で思った。
失いたくないと、切実に願った。
だからひどい言葉を口にしたし、裏切るフリもした。
誰よりも愛しい少女の未来のために。
(君が笑っていられるように)
それだけを願って。
「……わたしもはるかさんのこと、好きだよ」
「知ってる。そんなこと」
友達として、仲間として。
そんな思いならいらないのに。
「本当に知ってくれているの、はるかさん? わたしがどれだけはるかさんのこと好きか、知ってるの?
……嘘、知ってるはずないよ」
「おだんご?」
泣き声に驚いて、はるかは振り返った。
「どうすればいいのか判らないよっ! 好きなの、はるかさんのこと。大好き。……まもちゃんより、好き」
「……信じられない」
都合の良い夢を見ているのだ、きっと。
「はるかさん……」
「わたし、クイーン失格だね。……未来も変わっちゃうね。でも全部切り捨ててもいいくらい、はるかさんのことが大好き」
うっとりと、うさぎがそう言った。
「……一緒に堕ちようか」
抱きしめて、囁いた。
「うん、はるかさんと一緒なら怖くないよ」
はるかの一番好きな笑顔を浮かべて、うさぎが頷く。
「そうだな、おだんごと一緒なら……ボクも怖くない」
満面の笑みを浮かべたはるかだけのクイーンに、はるかは最初の口付けを贈った。
裏切ることさえ、怖くない。
愛しい。
誰よりも愛しい君が傍に居てくれるなら・・・。
……FIN
本当、意外でした。ばれたら、ひかれるかなぁと思ってたら、実はまどかさんもはるか×うさぎが好きだったなんて。
しかも,こんな素敵な話をくれるんだもの。タイトルは谷山浩子さん…だよね? 私も,この曲好き♪
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