理想としては

「ほら、飲めよ」
「ありがとう」
 瑛が入れてくれたのはコーヒーにほっと一息をつく。
「おいしい……」
「当たり前だ。誰が入れたと思っている」
「佐伯くん、です」
「わかればいい」
 マスターが焼いてくれたスコーンはコーヒーとの相性が絶品で。試作品を味見してほしいと言われて、こうして味わっているのだが、こういう時はここでバイトを初めてよかったなぁと思う。最初に瑛にはここでバイトをすることをいやがられていたようだが、今では相棒のような関係も築けている。
「マスター、おいしいです、これ」
「そうかい? 正直に言ってくれてもいいんだよ?」
「正直ですよ、私。だから、お店に出してくださいね」
「ふふふ。ありがとう」
 ほのぼのとした空気が二人の間に流れる。何となくそれがおもしろくない。子供のわがまま…というか、焼き餅というか。大人げない気がするけれども。
「瑛、私はおまえと同じ年の奥さんをもらう気はないから、大人げない顔はやめなさい」
「じいさん!」
「ま、若いということかな?」
 憮然とする輝に対し、マスターはどこか楽しそうな顔。
「大人げないって……」
 きょとんとする少女にマスターはにこにこと笑って、オーブンをのぞいてくるとその場を後にした。
「マスター、何が言いたかったのかな?」
「さぁな。おまえ、じいさんには懐いてるよな」
「素敵なおじいさんだと思うけど? 佐伯君のおばあさんがちょっとうらやましいかも。素敵なご夫婦だったんだろうね〜」
「まぁ、うん」
「あんな人のお嫁さんにならなってもいいかも〜」
「俺、おまえのことばあさんって呼ぶのは嫌だ」
「当たり前じゃない。私だって自分と同じ年の孫なんて嫌だよ。ああいう人にいつか巡り会いたいってことでしょ?」
「そうかよ」
 まるで今の自分は素敵じゃないのかと言われているようで、何となくむかつく。
「でも、佐伯君のコーヒーはおいしいから、毎日飲めたら、嬉しいと思うよ」
「……」
 意味をはかりかねて、少女の顔をのぞき込むが、少女はにこにこと笑うだけ。天然で言ったのか、深い意味であるのか。ほとんど前者ではあろうが。計算で物事を言う性格ではないのだ。
(この人魚に足りないのは言葉じゃなくて、俺の気持ちに気づく鋭さとかじゃないか……)
 思わず、そんなことを思ってしまう瑛なのであった。

マスター相手にやきもち焼くよ、きっと!と思って書いた気が(笑)
つーか、マスターいいですよね〜vvv


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