ハムスター気取り
「セレストはずるい」 「そうはおっしゃられましても……」 小さな小さな王子様。身の丈は10センチしかない。王子様の名はカナンと言って、卵から生まれた 不思議な存在。 そんな彼の世話をかいがいしくするのは、セレストと言うごく普通の騎士の青年。そして、カナンの 拾い主だ。刷りこみだから、面倒を見ろというカナンの無茶な申し出を受け入れ、かいがいしく世話を している。 「カナン様……」 セレストは途方にくれる。やんちゃでごむたいだけれども、大切な王子様だ。機嫌を損ねて嬉しい はずがない。 「セレストばかり、夏を満喫してる。僕は楽しめないのに……」 「カナン様……」 軽く溜め息をつく。初めての夏はカナンにはつまらないらしい。通販で小さいサイズの夏のアイテムは 手にはいるけれど、それではセレストと一緒に楽しめない。 夏の美味しい食べ物もセレストのようにまるごとは食べられない。花火は危ないからと却下されて、花火 大会に連れていかれた。これはこれで楽しかったが、屋台のものはカナンサイズのものはなく、かき氷や たこ焼きなどは諦めさせられたし、途中で赤い服を来た妖しい男がセレストにちょっかいを出して来たりして、 ちゃんと楽しめなかった。 普段だって、仕事があるからと部屋に一人きりでお留守番だ。カナンの不満はたまるばかりだ。セレストの 部屋は騎士団の宿舎で、冷房がないため、暑い部屋で一人きり。いらいらが溜らなければ嘘になる。 (どうしたものか……) セレストとて、好きで小さな王子の機嫌を損ねているわけではない。今、仕事を詰めているのも、まとめて 休暇をとって海にでも行こうと思っていたからだ。 (だからって、カナン様に我慢ばかりさせるのもなぁ……) どれだけ言い訳したって、それはセレストの都合に過ぎない。どうしたものかと、窓の外に何気なく視線を 向けると、一筋の光が緩やかに夜の闇を抜けた。 (あ、そうだ……) 頭の中にある考えが浮かぶ。セレストはふてくされているカナンをそっと抱き上げた。 「わっ?!」 すっぽりとてのひらサイズに収まる小さな王子は突然のことに驚いたようだ。 「少しだけ、待ってくださいね」 そう言うと、カナンを連れて、セレストは外にでた。 連れてこられたのは、小川のほとり。だが、カナンは目を見張った。 「うわぁ……」 夜の闇に光る地上の星にカナンは歓声をあげる。 「蛍ですよ。夏の虫です」 「蛍……。これが?」 「ええ。そうです」 そっと、一匹捕まえると、カナンに見せてやる。小さな虫だけれど。カナンにはそれなりの大きさだろう。 恐々と手を伸ばして、触ってみる。 「熱くない……。すごい、夏はこういうのもあるんだな。初めて、夏を実感したぞ!」 「そうですね」 ふふふ、と嬉しそうに笑う。 「もうすぐお休みをもらえますから、カナン様と一緒にカナン様が楽しめる夏を探しましょう」 「本当か?」 「ええ。約束します」 「うん!」 来たいに満ちた瞳に輝くカナンにセレストも嬉しくなる。 蛍の光に包まれながら、二人はしばらくたたずんでいた。 |
ちっちゃ王子です。緒方まゆさんへの夏コミでのお礼ですがね。ちっちゃ、好きですね〜(笑)
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