Shining

 不思議な人物だと思っていた。いつも、寝とぼけている記憶喪失気味の青年。なぞめいた言葉を紡ぎ出すこともあったけれど。けれど、悪い人間だとは思っていなかった。だから、国に来ればいいと思っていたし、その方が彼によかれだと思ってもいた。
「今頃、どうしているんだろうな……」
 遠い空を見つめて、カナンはぽつりと呟く。
「彼もある意味狙われる立場ではありますからね……」
「……そうだな」
 仲間を裏切る形になってしまった彼は追われる立場、だ。一人の天使が別れて、産み出された片翼の天使達。元は一人の天使で。一つの存在になることを切望しているはずなのに。人間の魂の輝きに惹かれ、セレストとカナンの手助けをする形になったのだ。彼はこの空のどこかでまた眠っているのかもしれない。
「エルダーは僕にルーシャス様の面影を追っていたのかな……」
「そう、ですね……」
 懐かしい匂い、それが意味するものには含まれていたのかもしれない。誇り高い魂はルーキウス王国の王家にずっと受け継がれているのだから。そういえば、ロイもカナンにルーシャスの面影を見出したな、とセレストは思い出す。運命というものは結構色々な糸が絡み合っているのかもしれない、とも。運命の糸は、運命を司る女神の意図の下に紡がれる。カナンが生まれたこの時代に、起こったさまざまなこと。少なくとも、セレストの人生の中でも、一番波乱万丈な時期かもしれない。…時期というよりは、このままなし崩しに波乱万丈な人生を送ってしまう気もしないでもない。カナンとともにある限りはその覚悟は必要なのだろう。
「僕はそれほど偉大じゃないんだけどな……」
「誰だって、最初から偉大じゃありませんよ……」
 ぽつりと言ったか何の言葉をフォローしつつ、こんなことを言ったら、冒険を肯定するみたいだな、と思い、セレストは苦笑する。
「でも、エルダーが僕の中にルーシャス様の魂の輝きを、人間の魂の輝きを見出してくれたのなら、僕は僕のままでいいと思うんだ」
「……そうですね」
 意識しなくても、きっとカナンはカナンのままだ。その誇り高く穢れを知らない瞳はずっと曇ることはないだろう。
「お前も、だ」
「え?」
「エルダーは僕らに魂の輝きを見出したんだからな。だから、お前もお前のままでいろ」
 きっぱりといって、カナンは笑う。かなわないなぁとセレストは苦笑するしかない。
「ある意味、責任をとってもらわないと」
「何の責任ですか?!」
「それは自分で考えろ」
 カナンの理論は本人から見れば整っているようで、セレストから見れば、ごむたいだ。けれど、そんなカナンに振り回されているのも、ある意味セレストらしさとも言うべきで。
(結局、変わりようがないのかもしれない……)
 それが一番、自分たちらしい関係なのだとしたら。変わっても仕方ないのかもしれない。そんなことを考えてしまう自分が妙におかしく思えるセレストであった。
 


ペーパーに載せようと思って書き出したら、シリアスだったので、ぼつったのです。もったいないんで、こちらにw

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