王レベ祭り

第二十六夜  風にふわふわ揺れる風船草は懐かしい記憶を呼びさます。小さなあの方の優しさと聡明さとほんの少しの胸の痛みとを。
 頭のいい人だとは子供の時から知っていた。俺の前では無茶を言う人ではあったけど、今ほどの無茶は言われなかった。王族としての自覚を持ちつつも、無邪気さを失わない人だった。
『絶対に言っちゃ駄目だ』
 風船草に託した秘密の気持ち。他愛のない子供の憧れだ、と一言で済ませられるはずのことを、あの方は否定した。兄王子を気遣って、そう言ってしまう、あどけない子供の悲しい純粋さと聡明さがそこにはあった。

 帰国したら、風船草を飛ばさないかとあの方に提案してみようか。そんなことを考えてみた。

第二十七夜  天使と言うのは神に仕える存在であり、神の代行人でもある。この世界は唯一神というものは存在しない。レベル神やスキル神など、様々な神がいる。
「いわゆる信仰上の神を合わせたら、計りしれんよ。時代によりけりだ。ある場所では悪神が違う土地では守り神だったりな」
 考古学者であるヘルムト・ジョーンズはそう解説してくれた。
「そういうものなのか……」
「時代によっては、善神、悪神が入れ替わることもある。古代の遺跡を探ってみれば、そんな事例はごろごろあるさ」
 行動に問題はあっても、伊達に博士号は取得していないと言うべきか。(ちなみにヘルムトに言わせると、ルーキウス王国はまだ若い国になるらしい。当分は探索の予定はないと聞いて少しばかり安心した二人であった)
「しかし、天使にも色々あるらしいが、ウルネリスと神秘の回廊にいるような天使達を同列にするのは嫌だな……」
「めちゃくちゃですよ、それ……」
 どう考えても一緒くたにはできやしない。あの天使(主に金髪の方)にできる悪事はせいぜいおやつの盗み食いくらいだ。
「ちゃんと仕事してるかなぁ…」
「さぁ……」
 まぁ、二度とは会うことはないとは思うけれど、ダンジョンでおやつをかじられていたりしたら、ちょっとは嫌だ。そんなことを言うカナンにセレストは苦笑するしかなかった。
第二十八夜  そう長くもない人生を生きてきているが、匂いをかがれることなんてめったにない。…戸言うか、普通、王族であるか何にそんな無礼な振る舞いをするやから等はいるはずもない。
「身分を隠していると、こういう目にもあうんだなぁ……」
 エルダーにかがれたことに関してはその程度の認識しかない。いつだって、寝ぼけている人物に今さらどうこうされても、もはや諦めしかない。そんなカナンに対し、セレストは少しばかり不機嫌気味である。
「どうかしたか?」
「別に……」
「むぅ」
 セレストがこんな風に不機嫌なのは何故だろうか。
「お前も僕が匂うとでも?」
「そうじゃないです。ただ……」
 少しばかり、セレストは視線を泳がせて辺りをうかがう。そして、人がいないのを確認するとガバッとカナンを抱きしめた
「ちょっとばかり、腹が立っただけです」
「それって……」
「……」
 すぐに離れてしまったぬくもりが寂しいけれど、それ以上に嬉しい収穫にカナンは満足げに笑った。もちろん、エルダーの匂い発言は脳裏の隅に追いやられたことは言うまでもない。

第二十九夜  ハニ助とシリエのデートがうまくいって、カナンとセレストはよかった…と思った。幸せそうな二人を見ていると、こちらまで幸せになれる気がする。
「よかったですね」
「あぁ、協力したかいがあったな」
 などと、会話していた二人であったが、お供にモンスターを連れ歩こうと、キャラ屋に行って、後悔する羽目になった。


「うふふ……」
 夢見がちの表情の萌流に出迎えられることに慣れはしたけれど、今日は更にパワーを増している気がした。
「き、今日はご機嫌麗しいようだな……」
「うふふ…わかります〜?」
 いつもにも増して、夢見がちで周りに花を巻き散らしているのだ。わからないはずがない。
「今日、お二人は午前中はどうされてました〜?」
「僕達はいつもどおりに遺跡の調査をしていたが?」
 本当はハニ助のデートのアドバイスに出向いていたが、万が一、シリエの耳にはいるとまずいので、嘘も方便である。
「じゃあ、午前中に喫茶店におられたのはお二人じゃなかったんですか〜」
「何の話ですか?」
 非常に心苦しくはありつつも、一度ついた嘘はつき続けなければならない。そんなカナンとセレストに萌流は嬉しそうに語り始めた。
「今日、うちの小太刀のおやつを買いに行く途中でお二人によく似たカップルを見掛けたんですよ〜」
「ほう、世の中にはそっくりさんが沢山いるからな」
 しれっと言いきるカナンをさすが…とは思うセレストである。
「その二人がね〜もう、理想で〜。らぶらぶクラッシュ新ロマンソーダを飲んでらしたんですよ〜。攻様は穏和そうな方で受様に振り回されているようでしたけど〜、きっと夜はもう…ねぇ〜」
 いたたまれない気分になるのは何故だろうか。気まずい気分にカナンとセレストは襲われる。
「と、とりあえず、捕獲ロープを売ってもらえないか?」
 いたたまれないままにふたりはそそくさとジェイキンラボを後にした。
「僕達だと思われてるんだろうか……」
「だから、アレなカップルだと申し上げたじゃありませんか……」
 何ともいえない感情に襲われるセレストに対し、カナンは少しばかり嬉しそうに笑った。
「カナンさま?」
「恋人同士に見えたってコトだろう?」
「……!」
 …この切り返しでくるとは思っていなかったセレスとは絶句する。
「…違うのか?」
「違いません」
「そうか」
 本当に嬉しそうに笑うカナンにどうしようもない愛しさを感じる自分もどうしようもないと改めて自覚するセレストであった。
第三十夜  情事の後のの気だるい感覚は眠りを誘う。背を撫でるセレストの優しい手はそれを促してくれて。
「ふふふ…」
「どうかされましたか?」
「ん…幸せだなあ、って……」
「私もです……」
 明日には国に戻り、元のように日常に戻る。けれど、今は恋人同士の時間。甘い睦事とキスだけがあればいい。
「あの…な……」
「はい」
「その、いやらしい夢を見てるのかとか思ったとか言っただろう……」
「…あの、はい……」
 何とも言えない気分に陥る。そういう言葉を言ったのはそういう過程があったわけで。
「その…夢とかに出るのは僕だと思ってもいいのか?」
 真っ赤な顔で物凄いことを問掛けられて、つられてセレストの頬も紅潮する。
「それは…その……」
 言いよどんでしまうのは肯定にも等しくて。互いの体温が上がる気がした。
「…だったら、いい。僕だけじゃないんなら……」
 加えて、こんなに可愛らしい言葉を言われて。男として、嬉しくないはずがない。
「カナン様……」
「あ……」
 甘い口付けを交わせば、余韻の残る体には甘い毒にしかならなくて。甘い時間は再び始まる……。

よくねたを考え付いたな、当時の私……。