王レベ祭り

第二十一夜 「よく僕の偽物だとわかったな」
 ゴールデン捕獲ロープを奪おうと画策したきゃんきゃん党の企みを見事に阻止できたのは、カナンに化けたころっけこと、まねしたをセレストが見抜いたからだ。
「わかりますよ、カナン様とは全然違いましたから」
 当然のようにセレストは答える。ローウェルの時には全然気付かなかったのに、カナンの場合はちゃんと見抜いてくれた。何だか、おもはゆいけれど、嬉しくもある。
「僕に関するカンは働くみたいだな」
「当たり前です、何年お側にいるとお思いですか? カナン様がどんなカナン様でもわかりますよ」
「むぅ……」
 何気無くすごいことを言われている気がする。
「じゃあ、僕がにゃんにゃんになってもか?」
「ええ」
「ハニーやおかゆフィーバーになってもか?」
「はい」
 きっぱりとかつ堂々と。こうこられると、少しだけ意地悪な気分になって。
「大した忠誠心だな」
 けれど、その言葉にもセレストはにっこりと微笑して。
「愛情だとは解釈してくださらないんですか?」
「う〜」
 まさか、こんな切り返しで来るだなんて思ってもいないカナンは真っ赤な顔でセレストをにらみつけるだけで精一杯であった。

第二十二夜  神秘の回廊内にある生産管理室で、青い髪の天使は今日もせっせとお仕事です。生真面目で几帳面な性格もあり、デスクワークは彼の天職とも言えました。
「えーと、次には……」
 コンピューターと書類とにらめっこしながら、仕事を進めていると、
「たのもう」
と言う言葉と共に金色の髪の天使が入ってきました。
「あの…前から申し上げていますが、部屋に入る時には『たのもう』ではなう、『失礼します』ですよ。私相手ならともかく、他の方には失礼ですよ」
「主旨は似たようなものじゃないか」
 あっけらかんと金の髪の天使は答えます。まぁ、青い髪の天使もある意味慣れっこなので、それ以上は追求はしません。
「お茶にしよう。おやつを仕入れてきたぞ」
「また、冒険者のおやつを取ってきたんですか?」
 金の神の天使は外回りが主な役目ですが、時々寄り道をしたりする困ったサンでもありました。
「いいじゃないか。一つくらいなら、困らないぞ」
「そう言って、この間は人間を二人も連れてこられましたよね」
「むぅ」
 ふてくされてしまうと、金の髪の手がつけられませんので、青の髪の天使はそれ以上は追求はしません。かわりにいそいそとお茶の準備を始めます。
「お前のお茶は美味しいな」
「ありがとうございます」
 おやつとお茶はとても美味しいです。おかしをこっそりつまみ食いするのもとても美味しいです。けれど、二人で食べるおかしはもっと美味しいと金の髪の天使は思いました。
第二十三夜  世界の秘密を知ってしまったことは幸運なのか、そうでないのか。イマイチ複雑である。
「でも、あの場に行ったのが僕達でよかったかもな……」
「どうしてですか」
「盗賊団が行ってみろ。ナタブームはともかくとして、子分達がどれだけ迷惑をかけるか……」
「天使ともめるでしょうし、卵も持っていきそうですしね……」
 下手したら、食べてしまいかねない。
「それに子分似のモンスターができてみろ、ナタブームの苦労がまた増えるぞ」
「……」
 簡単に想像がついてしまうのはたしていいことなのか、そうでないのか。非常に微妙である。
「神様はよくみていらっしゃるということだな。白鳳だったら、もっと怖いことになってた……」

「確かに……」
「個人的にお前似の天使の貞操はなくなっていたと思うぞ」
「縁起でもないことを言わないでください!」
 あの人だったら、本気でやりかねないと思ってしまう自分がとても悲しくなるセレストであった。
第二十四夜  僕だって、我慢していたんだ。だって、あいつには色々と立場があるから、その、睦み事を強要することも出来ないし。城の中ではやっぱり、自粛したほうがあいつの精神衛生上にいいんだろうから。でも、城の中じゃなかったら、そうじゃないかも…とも期待したんだ。もちろん、兄上が僕たちを推薦してくれて、ヒライナガオに赴いたんだから、それが目的というわけでもなくて。せめて、道中の宿で…とも、少しばかりは期待したんだ。…期待するだけ、無駄だったが。まぁ、何事もなく寝ていてくれていたおかげであの指輪をはめることも出来たんだが。
 でも、ずるいじゃないか。あんなふうに抱きしめてくるなんて。だがら、我慢、していたのに。僕を包み込んで、安堵の声を上げて。僕だけをどきどきさせておいて。我慢なんて、すぐに飛んでしまう。
 キスをして、その先を求めるのはそんなに自粛すべきことじゃないと思う。だって、触りたいし、触れたい。普段は穏やかな従者の顔をしたあいつが僕を求めるその表情に僕は満たされる。ああ、僕だけじゃないんだ…と。
 それに気づかないあいつはやはり、唐変木なのだ。うん。そうに違いない。でも、あいつじゃないと駄目なあたり、僕も末期なんだろう……。

第二十五夜  黒髪マニアの障害は相田氏の協力で道が開けた。
「けど、ワカメは大事にしよう。色々役に立ちそうだしな」
「変装に使うのはおよしくださいね」
 やんわりと主を制する従者にカナンは不満そうな顔をする。
「いいじゃないか。これだったら、髪は痛まないぞ」
 天然素材で髪にいいと訴えるカナンの髪をセレストは一房つまんだ。
「駄目ですよ、こんなに綺麗な髪を染めるのは……」
 光の下では太陽のように、夜には月光のように。綺麗な金色の髪をセレストは気に入っている。
「髪だけ、か……?」
 その問掛けにセレストは微笑して、そっと髪に口づけを落とす。
「髪も含めて、カナン様がカナン様を形作るものは大切ですから」
「む〜」
 反論の言葉を失うカナンにセレストはもう一度髪に口づけを落とした。

一応、折り返しになってきました……。よくやった、私……