王レベ祭り

第十六夜  『しこうのカレー』作成は厳選した材料を持って、カイラバ画伯より合格をもらったカナンは満足そうな顔だ。
「やはり、自分の足でえたいい材料だったからな」
 集めた材料の中には金魚やおかゆ一番しぼり、にゃんにゃん、萌流さんからもらった怪しいクスリ等も含まれてはいたが、使わなかったのだから、敢えて追求はしないセレストである。が
「確かに、本当の意味での『ご馳走』ですからね」
「本当の意味?」
「ええ。ご馳走の本来の意味はお客様をもてなすために走り回って、材料を探すことからだそうですから。サメライ屋さんでお聞きしたことがあります」
「へえ。じゃあ、僕のカレーは文字通りご馳走だな」
「そうですね」
 怪しい材料が入っていなかったカレーはちゃんと美味しかった。それは素直に認める。
「美味しかったか?」
「ええ。美味しかったです」
「そうか」
 はにかみが混ざった嬉しそうな笑顔にセレストも笑みをこぼす。
「なぁ、セレスト。僕達はパートナーだよな?」
「あ…はい……」
 思わず返事に詰まるのは嫌な予感が脳裏をよぎるから。だが、カナンの言葉はセレストのよそう手はかけ離れていた。
「今度はセレストが僕にご馳走してほしい……。今じゃなくていいから、いつでもいいから……」
「カナン様……」
「駄目、か……?」
 ジィッっ見上げてくる青い瞳。
「大したものは作れないかも知れませんよ……」
 こんな可愛い申し出をパートナーとしても、恋人としても逆らえるはずがない。カナンはパァッと瞳を輝かせる。
「いいんだ。お前が僕のためだけに作ってくれるのが一番だから」
「走り回って材料を探しますね」
「その時は僕も手伝ってやるから」
「それは結構です」
 暗に脱走やお忍びを差す言葉は慎んで辞退する。ちぇっと舌打ちするカナンにセレストは微苦笑を浮かべた。

第十七夜  眠るのは好きだ。何も考えなくてもいい。自分が何者なのか、どこから来たのか、何をするべきなのかを覚えていなくても、眠っていれば、困ることもない。
「また、こんなところで眠って……」
 困ったような声に起こされる。最近はずっとこんな感じだ。金色の子供の声。ああ、そうだ。カナンだ。
「こんなところでよく眠れるなー」
 呆れたような顔。眩しい子供。金色の髪のせいなんだろうか。きらきらしている。けれど、嫌なきらきらじゃなくて、懐かしいきらきら。俺はこの輝きを知っていたのかも知れない。けれど、カナンは俺を知らない。きらきらは多分、俺の記憶を呼びさます鍵なのかも知れない。あのきらきらを思い出したとき、俺は……。
 けれど、今は眠りたい、全てはあやふやな眠りの中に封じ込めて。眠りたい。何もかもを知らないままに。眠りたい、遠い記憶を置き去りにして。ただ、眠りたい……。
第十八夜  赤王号が無事に戻り、ひとまずは安堵のため息をついた。
「頑張られましたね、カナン様」
「そうだろう?」
 マタドール姿のカナンはりりしく、可愛らしかった。(後者は言うと、すねてしまうので、絶対に口にしないが)
「僕の冒険者としての物語の一ページに載せるには相応しなぁ」
「……はぁ」
 これを肯定するべきか、しないべきか。下手に肯定はしたくない。
「でも、お前のうしを手名づける姿も見てみたかったな。懐かしくならなかったか?」
「そうですね。部下に任せていますが、やっぱり心配ですね」
「お前は愛うしを可愛がってるだろう? 暴れ牛にはならないだろうけど、きっと慕ってくれるさ。もしかしたら、追いかけてきてくれるかも知れんぞ?」
「それは遠慮します……」
 愛うしは可愛いけれど、ここまで来られたら、ローウェルに迷惑になる。そんなセレストに対し、カナンは含みを持たせた笑顔で見上げてくる。
「カナン様?」
「お前が僕についてきたら、の話だ」
「……」
「大丈夫、まだ、答えは保留でいいから」
 答えられないセレストにカナンは鷹揚に笑った。
第十九夜  芝刈屋店主である、青年ハニー、ハニ助とスキル屋の主であるシリエとの中は順調にいっているらしい。
「愛の力はすごいな……」
「そうですね」
 恋人たちの関係がうまくいくことに越したことはない。
「らぶらぶくらっしゅ新ロマンソーダのご利益かな」
 そう言うと、カナンは悪戯っぽい瞳でセレストを見上げた。
「僕たちもご利益に預かれるかな?」
「死ぬほど恥ずかしかったですよ……」
 あれはらぶらぶで自分達しか見えないカップルが頼むものだと思ってるセレストにとっては恥ずかしくて仕方がないばかりで。あの店員に自分達がどう思われているのか、考えると嫌だし、あの店にはもう行けない気分だ。ある意味、ルーキウス王国でなくてよかったとも思った。
「狭量なやつだな。いいじゃないか、ここは僕たちの国じゃないんだから。変装も完璧だから、ローウェルにもばれないぞ」
「そういう問題ではなく……」
「……たまには僕にも恋人気分くらい、味あわせてくれたっていいじゃないか……」
「カナン様……」
 ずるい、と反射的に思ってしまった。こんな可愛いことをこんな風に可愛らしく言ってしまうだなんて。
「今、可愛いと思ったろ」
「え゛……」
「むぅ」
 すねてしまうその表情も可愛いと思ったら、叱られるんだろうな…と思いつつ、思わず笑みをこぼすセレストであった。
第二十夜  子供扱いを嫌がるカナンがされるがままになっていたのは、頭を撫でたのが憧れてやまない伝説の勇者の一人だったからだ。少しばかり、羨ましく思った自分自身にセレストは苦笑した。
(俺も挟りょうだな……)
 ずっと、陰から支えてくれた彼にとって、カナンは大切な親友の、そして、妹の子孫だ。遠い甥、その言葉にどれだけの感慨がこもっているかはわかる気がした。体を離れるときに、ロイはセレストにこう言葉を残した。
「あいつの子孫をよろしく頼む……。お前たちはちゃんと二人でいろよ……」
 その言葉にどれだけの感情がこもっていたのだろうか。それを考えると、胸が痛む。残す方も残される方も、納得ずくとは言え……。
(俺は簡単には死なせてもらえないみたいですから…大丈夫ですよ……)
 あの時の返事をそっと心の中で返す。自分が死んだら正気でいないと言ってくれたパートナー兼恋人への限りない忠誠と愛と共に……。

しかし、書くものに統一感がないのは何故……