王レベ祭り

第十一夜  そして、お茶会はなおも続く。カナンの活躍した話を、家族は楽しそうに、末っ子王子の成長ぶりを微笑ましく見つめている。そこにいるのが自分であることがセレストには恐れ多く、そして、自分の不本意なおかし男の扮装で盛り上がってくださる一家に複雑なものを感じていた。
「そういえば、おかし男の服は持ってこなかったの?」
「え?」
「セレストなら、とっても素敵なおかし男になれると思うの〜。私、またおかしを作るから、おかし男の格好で給仕して欲しいの〜」
 ニコニコととんでもないことを口走るリナリアにセレストは圧倒されてしまう。この弟にして、この姉だ。もちろん、カナンとは違うけれど、こののんびりとしたペースに巻き込まれてしまいそうになる。
「駄目です、姉上!」
「カナン?」
 珍しく、リナリアに強い口調で止めるカナンに一同はびっくりする。
「セレストは騎士ですよ。いくら、姉上のためとはいえ、そんな姿をセレストの部下が見たら、セレストを軽く見るようになるかもしれませんよ」
「それはそうじゃのう……」
 王であるリプトンも納得している。とりあえずの危機を乗り越えて、ほっとするセレストであった。


「カナン様、ありがとうございます」
「別に……。お前のためじゃない。僕が嫌だったんだ」
「え?」
 あれほど、自分におかし男の扮装をさせたがってた人の変わりぶりにセレストは戸惑う。
「だって、姉上にお前の腹チラを見せるんだぞ? 侍女さんたちだって、見たがるに決まってる。そんなの、嫌だ」
「はぁ……」
 何ともいえないかわいらしい嫉妬といえばいいのか。複雑な気分になったセレストであった。

第十二夜  ああ、やっぱりと思ってしまった自分に笑ってしまった。
 本気でしているわけではなく、ついからかってみたくなるだけ。彼をつつくと、あの坊ちゃんが途端に反応するのが楽しくて。そう、楽しんでいる。
「セレストには決まった相手がいるんだぞ!」
 真っ赤な顔をして、可愛いったりゃありゃしない。なんて、認めてしまえるあたりが本当に笑えてしまう。だから、私は彼らをからかうのだ。彼には興味があったし、自分のことをさらけ出しそうになったけれど。彼が大事にしてるのは、真綿に包んで大切にしてきたのはあの坊ちゃんだから。…そう、私はあの二人が二人でいることが楽しかったのかもしれない。
 私とは違う、光の道を歩く人たち。羨ましいとは思わない。ただ、道が違っただけだ。…私のような間違いを彼らはするはずがないだろう。彼らには互いの存在があるのだから。
 偽悪的に振舞うなといった彼に、悪態をつくのはせめてもの私の意地のようなもの。私にはもう関わっちゃいけない。彼には光がある。傍らの光を大事にしていればいい。私にはスイがいる。それだけでいい。

 欲しいものはもう何もないのだ。ただ、時々、光に焦がれるだけ……。
第十三夜  事後のけだるさはあるけれど、それを求めずにはいられない。自分だけがそう思ってみるみたいで悔しいのに。いざ、コトに及ぶと、主導権を握るのは彼だ。
「むぅ」
「どうかなさいましたか?」
 平気な顔をして、日常を。今は、非日常だけれども。ヒライナガオでの毎日は僕たちが知らなかったことばかりで、楽しくて仕方ない。…まぁ、彼は色々複雑だったりするわけなんだが。
「僕だけが求めてるみたいだ」
「なぁっ!!」
 僕の発言に彼はその青い髪と同じくらいの色の青になる。
「だ、誰かに聞かれたら、どうするんですか?!」
「深くは言ってないから、大丈夫だろう。慌てふためいてるお前のほうがおかしく思われるぞ」
「あなたという人は……」
 がくっと肩を落とす彼に僕はちょこっとだけ、意趣返しをした気分になる。
「その…なるべく、努力しますから……」
「……むぅ」
 そんな言葉で嬉しく思うあたりが末期なのかもしれない。そう思ってるのは僕だけなのかと思っていたら、今度は真っ赤な顔の彼を見て、ちょっと満足した。
第十四夜  もしも、涙が流せたのなら、私は泣いていたのかもしれない。不本意だけれども、あの人の言葉で目が覚めて。
 あの人は自分を、仲間をとても大切にする人だ。あの人だったら、私のようには間違えなかったんだろう。
「痛…、結構強く殴られたな……」
「きゅるりー」
「ああ、大丈夫。これくらいなら、平気だよ」
 当分は遊び歩けないだろうけれど。心配そうに私を見つめるスイ。あの人に言われなくたって、自分が一番わかっている。本当に大切にしなければいけなかったたった一つを。
「借りを作っちゃったなぁ……」
 クジラの一件では足りないくらいの大きな借り、だ。あんなにボロボロになったのは白鳳に大きな責任がある。自分に何ができるだろうかと考えて、白鳳は微苦笑を浮かべた。
第十五夜  とりあえず、よく寝る人物だとカナンは思った。どこであっても、ほとんど寝てばかりだ。
「あれだけ寝ると、脳が溶けないのだろうか……」
 不思議としか思えない。普段活発に動くカナンとしてはあれだけ寝ても、寝たりないエルダーが不思議でならないらしい。
「まるで、にゃんにゃんみたいですね」
「にゃんにゃん?」
「ええ。にゃんにゃんも結構寝るんですよ」
「へぇ、それは知らなかった。けど、にゃんにゃんと一緒にするのは失礼だぞ」
「そうですね……」
「にゃんにゃんはところかまわずな寝ないじゃないか」
「……にゃんにゃんにですか」
 普通はエルダーにだろうと思わず、突っ込みを入れてしまいたくもなったが、妙に納得もしてしまうセレストであった。


で、十五話までです。このあたりは短いですなw