王レベ祭り

第六夜  私のおつかえする方はルーキウス王国第一王子であり、次期国王であるリグナム殿下だ。人格者で真面目すぎるきらいがあるが、国王を含む王家の方々はおっとりとしている点もあり、ご自身がしっかりせねばと思っているのだろう。眉間の皺がそれを物語っている。
 私は近衛隊長であり、リグナム様付の従者として、この方につかえることを誇りに思っている。
 さて、そんなリグナム様だが、旧友であるヒライナガオの都市長ローウェル殿から手紙を受け取ってから、何やら考えておられる。…とはいえ、真剣な悩みとかではなく、例えるなら、悪戯を考える時のような、そんな表情だ。
「何か考え事ですか?」
 私の問掛けに対し、リグナム様は楽しそうに顔を上げる。
「あぁ、近々セレストに長期出張に行ってもらおうかとね。一応、上司にも話を通した方がいいかな?」
「カナン様のお供でですね?」
「あぁ、そうだね」
 私の直接の部下であり、第二王子のカナン様付の従者の名を出されるのなら思い付くのは、やはりそうで。
「驚かせたいから、内緒にしておいてくれるね?」
 その表情は本当に楽しそうで。それを邪魔にするほど私もやぼではない。
 後日に頭を抱えているであろう部下の姿が思い浮かんだが、カナン様に振り回されて、日常茶飯事のようなものだろうから、気にしないことにしようと思った。

第七夜  記憶の中の少年は小さな男の子だった。何年かぶりにあったら、すくすくと成長していた。けれど、中身は然程は変わっていないようで、安心する反面、傍らにいる青年に少しばかり同情もした。彼も随分成長したようだ。
 背も伸びているし、体つきも騎士のそれである。あの少年の従者であることを選んだ。そのために彼も努力したのだろう。
 見た目の変化に驚きはしたけれど、変わっていないところに安心している。ちゃんと、二人は二人のままらしい。
 以前に、あの少年の兄である私の親友は弟のことで自分に迷いを見せていたこともあったけれど。そんなことも笑えるくらいに時は流れていて。(もっとも、子供の頃の話を蒸し返されるのは少年には面白くないだろくけれど)
 今、都市長として、色々とやらなければならないこともあるけれど、この二人は私が知らなかった色々な不思議を見せてくれるような気がする。変わらない瞳を持つ少年とその傍らにいる青年にはそう感じさせるなにかがある。
 私は二人を来させてくれた親友に感謝した。
第八夜  大切な宝物を抱えて、カナンは上機嫌であった。憧れのご先祖様のルーシャスと苦難を共にした剣士ロイのサインをもらえたのだ。誰が信じてくれなくても、カナンとセレストがその真実を知っている。それだけでよかった。
「イタコの実はまたとれるだろうか……」
「私はいいですよ……」
 会いたい人がいれば使ってくれるとカナンはいったが、会いたい人に死んだ人は幸いにもいない。セレストの言葉にカナンは首を振った。
「ああ、そうじゃない。ロイのために使いたいんだ……」
「……」
 その言葉の意味を図りかねて、答えを考えてみる。そして、一つの答えにたどり着いた。
「ルーシャス様を、ですか……?」
「あぁ。会わせてあげたくはないか?」
 志を同じくして、共に戦った者たち。悲しい本当の話を封印し、楽しい御伽噺に作り替えた人。それを望んだ人のために。
「ロイさんが望めば、ですがね……」
「そうだな。でも、ロイがアーヴィングのような性格でなくてよかったとは思う」
「ははは……」
 父親のことを引き合いに出されて、セレストは苦笑するしかなかった。
「嫌ですよね、確かに……」
「だろう? 妹に手を出した奴の子孫扱いされるんだぞ?」
 遠い甥だとカナンの頭を撫でたロイに関しては複雑な思い出はあったが、カナンの物言いを聞いていると、それはそれでよかったと思うのであった。
第九夜  ヒライナガオから一時帰宅したカナンを待っていたものは家族からの熱烈な歓迎だった。もちろん、従者であるセレストも同様に。姉姫であるリナリアのお手製のチーズケーキを囲んでの国王一家の家族のお茶会に恐れ多いと辞退したのだが、おしきられる形になってしまった。
「二人が随分活躍したとローウェルからの手紙に書いていたよ」
「そうでもありません」
 謙遜しつつも誇らしげなカナンと複雑な表状なセレスト。非常に対照的である。
「カナンは闘うしにも挑戦したそうだね」
「ええ。頑張りました。闘うし用の衣装が僕のサイズしかなかったので、セレストはできなかったんです」
 ちゃんと、セレストを気遣ってのフォローは忘れない。けれど、それならば最初からあの指輪をつけないでいてくれた方がありがたかっただなんて…とは追求してもいけないらしい。
「うむ、何事も経験だしね。セレストもついているから、大丈夫なはずだしね」
 本当に危ないことはセレストがさせるはずがない、彼の従者気質を信頼してのリグナムのその言葉にやはり複雑な気分になるセレストであった。
第十夜 「そう言えば、セレストも変装したらしいね」
 ヒライナガオから一時帰国したセレストとカナンを囲んでのお茶会の会話は向こうでの二人の活躍についてに当然なる。
 ローウェルは二人のことを手紙にこと細かく書かれていたようで、カナンの闘うしはもちろん、セレストの変装も書かれていたらしい。
「い、いえ。大した変装じゃ……」
 その話題にはなるべく振れて欲しくはなくて、会話を回避しようとするセレストであったが、
「ほぅ、どのような変装を?」
「教えてちょうだいな」
と国王夫妻に聞かれたら答えないわけにはいかない。宮仕えの悲しさである。
「その…少し困った人物達が調査の邪魔になりましたので、そのために変装をしました」
「おかし男の扮装です。宿屋の主の服をお借りしました。染色にも挑戦したんですよ」
 誇らしげに語るカナンにどうして、それ以上のことが言えようか。できれば、触れて欲しくなかった話なのに。
「染色用の植物で染めたんですよ」
「ああ、ヒライナガオの……」
 植物学を専門にする兄王子にも興味がある話らしく、ごまかすこともできないまま。複雑な気分でのお茶会は続いていた。


で、今度は十話まで。