My Master



  シュル……。衣ずれの音が響く。
「ん……」
 無意識に甘い吐息が唇から零れ落ちたことに気づき、カナンは慌てて、唇を噛み締める。
「カナン様、どうかなされましたか?」
 クスリ、とセレストが笑う。いつものよいに柔和な笑顔と声。けれど、その手はカナンの滑らかな肌をさ迷っている。
「どうかって……。そうしているのは、おまえだろう……!」
「そうですか?」
 こんな状況でも、憎まれ口を忘れない少年が愛しくてたまらない。セレストは恭しくカナンの手の甲に口づける。
「じゃあ、どうしてほしいのですか?」
「!」
「ですが、おっしゃっていただかねば、わかりませんよ?」
 そう言いながらも、セレストの手はやんわりとカナンの中心を包み込む。
「あ、や……!」
「嫌なんですか?」
 そう耳元で囁きながら、耳朶に舌を這わせ、軽く噛む。
「カナン様が嫌なら、私はやめなければいけませんね?」
「ば、馬鹿者……」
 思わず、潤んだ瞳でカナンはセレストを睨むが、そんな仕種が愛らしく映ることを知らないのだ。だからこそ、愛しく感じる。
「私はカナン様の従者です。ですから、カナン様のお望みにならないことをするわけにはいかないでしょう?」
 柔らかな言葉とは裏腹に妖しく動くセレストの手はカナンの熱を煽り続けている。
「ですから、その唇ではっきりとおっしゃってくださいね」
「あ、くっ……」
 限界寸前までカナンを追い込みながら、昇り詰める直前で手を離される。そんなことを幾度も繰り返され、気が狂いそうになる。
「セ、セレスト……」
「どうなさいました?」
 あくまでも、形の上で従者としての礼を取ろうとするセレストの手にカナンは自分のそれを重ねる。
「カナン様?」
「いい加減、僕の身体を焦らすな……。僕を、楽にしろ……。後はお前の好きにしていい、から……」
 そう告げると、紅潮した顔を恥ずかしげに伏せる。
「わかりました。カナン様のお心のままに」
 そう告げると、セレストの手がカナンの熱を一気に追い上げてゆく。
「あ、あ――!」
 セレストの手の中にカナンの熱の証が放たれる。荒い息をついて、潤んだ瞳で自分を見上げてくるカナンの眼差しにセレストは
満足そうに微笑んだ。



「うぁ……」
 先ほどカナンが放ったもので濡れた指が中を探ってゆく。弱いところを丁寧に探り当て、その身体の熱を再び煽って。
「も、やだ……」
 中心に熱がまたこもり始めて。力を取り戻し始めている。それなのに、セレストは自分をなんでもないことのように見つめて。
「好きにさせていただいてもよろしいですか?」
「ば、馬鹿……」
 そう毒づいて、羽津傾げに顔をそむけたカナンの頬に口づけを落とすと、セレストは指を引き抜き、すでに興奮している自分
自身をあてがった。
「く、っ……」
 熱い熱が体内から自分を蝕んでゆく。ひどく不自然なことのはずなのにそれが自然で。そこから伝わるのは確かにセレストの
情熱であるから。
「カナン様……」
 名前を呼ばれる、そんなことにすら反応する自分の身体。だが、その声は先ほどの冷静すぎる様子とは違い、確かに自分を
求めるもので。
「はぁ、や……。セレスト……」
 セレストの背に手を回し、カナンもまたセレストの名を呼ぶ。揺さぶられるままに快楽を煽られ、高められて……。一つの熱に
溶け合ってゆく……。


 事が終われば、後朝の朝ということでロマンチックなはずなのだが、この二人の場合は多少違う。
「馬鹿者」
 その一言とともにちょっぷが降りて来る。あれから、好き放題に抱かれたのだから、当然といえば当然だが。
「好きにしていいと仰ったのはカナン様でしょう?」
「だ、だからって……」
 思い出しただけで顔が赤くなる。セレストの腕の中で乱れに乱れた時間。自分が自分でなかった瞬間。
「私だってたまには強気で痛いときがあるんですよ」
「やりすぎだ、馬鹿者!」
 真っ赤になってそっぽを向くカナンを可愛いと思う時点で末期だ。そうわかっている。
「では、お嫌でしたか?」
「う……」
 そういうわけではないから、真っ赤になっているのだ。この男は気づいているはずなのに。何だか悔しくて、二度目のちょっぷを
カナンはセレストに送った。

 表のページには置きにくいと思ってたので裏に。ついでに書き足ししました。ふふふ……。