愛の結晶

 午後のお茶をカナンの下に運ぶと、いつものようにため息が出る。脱走でなかった分、まだましなの

だけれども
「また、幻獣をよばれたんですか!」
 ふよふよと部屋の中を飛び交う幻獣を見て、セレストはため息をつく。一子相伝の幻獣召還を第二
王子であるカナンが行えるのは絶対の秘密だから、気をつけてほしいのに。
「そうこいつを邪険にするな。可哀想じゃないか」
「別に邪険になどはしてませんよ」
 くぷーとカナンの手の上で脳天気に鳴いてる様子を見るかぎり、傷付いてはいないようだ。というか

、何と無く困る。彼(?)はセレストの命の恩人なだけではなく、人知れずこの世界の危機を救った小

さな勇者なのだ。
「それに、こいつは僕達の愛の結晶じゃないか」「はい?!」
 カナンの言葉の意味を掴めず、数秒間セレストの思考が止まる。そして……。
「カ、カナン様……!」
と、お約束通りにあわてふためく従者をよそにカナンは幻獣を招き寄せた。
「確かにこいつを召喚したのは僕の血のなせる技だ。だけど、こんなにもおまえにそっくりだというの

に、つれない話だ」
「そっくりって……」
 確かに幻獣は可愛いし、この国の人間であるからセレストものんきなところはあるかもしれない。け

れど、そっくりと言われることにいささかの複雑さも混じる。
「何を深く考えている。ほら、似てるだろう」
 そう言って、カナンは手を伸ばして、セレストの髪を一房摘んだ。
「こいつの鮮やかなブルーはおまえ譲りじゃないか」
「くぷー」
 カナンの言葉に同意するかのように幻獣が鳴き声をあげる。
「私の髪の色、ですか……」
 確かに自分の髪も幻獣の色も、目にも鮮やかなブルーだ。だが、鮮やかなブルーならもう一つ、
セレストの目の前にある。
「カナン様の瞳も綺麗なブルーじゃないですか」
 自分を見上げてくる空色の瞳はその言葉に少しばかり不満そうな色をする。
「僕の瞳の色では薄い。どう考えても、おまえの髪の色じゃないか。な?」
 カナンが同意を求めると、くぷーと脳天気な鳴き声が再び。認めてしまうべきか、認めないべきか。
複雑な気分のセレストであった。
「それに、だ。僕がこいつを召還したときにはお前のことで頭がいっぱいだったからな。この色になって
しまった」
「カナン様……」
 思い出すのはあの冒険の日々の終末。奇跡とともに現れた存在が、目の前の彼(?)だった。
「っ、とにかく、そういうことだ」
 ぷいと顔をそむけるかなんであったが、その表情は耳まで真っ赤だ。その様子が年相応で可愛らし
いと思ってしまう自分は末期だろうか? などと考える。
「な、何がおかしい?!」
「いえ。ただ、私たちの愛の結晶なら、ちゃんと大事に扱わないといけませんね」
「……わかればいい」
 未だに納得はしていないようだけれど、まぁ、それはそれとして。
「お茶が冷めてしまいますからね。彼も一緒に、ね?」
「誰か来たら、どうする?」
「鍵をかけてまいりますか?」
「ん」
 鍵をかけて、人払いをかけてしまえば、もうそこは。恋人たちと彼らの愛の結晶とも言うべき奇跡の
存在だけの時間。
 こういう午後も悪くはない、などと思ってしまったのはカナンには言えないなとセレストは思った。


幻獣はあの二人の愛の結晶です。(きっぱり!)

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