暑さ対策
初夏に差し掛かる次期なのに、気候は夏並で。暑さにぐったりとするカナンにセレストはおやつではなく、軽食を持って入ってきた。昼食も殆ど食べようとしなかったカナンがおなかをすかせていると判断したからだ。
「う〜。冷たいものの方がよかったのに」
「だめですよ。熱いときは冷たいものを取りすぎると、かえって身体に悪いんです」
具の入っていないシチュー…ではなく、とろとろに煮詰めて、飲み込むだけの状態にまで煮込んでくれたシチューはありがたいけれど、この熱いのに食べたくはない。
「栄養はあるんですから。ちゃんと食べないと。夏を乗り切れませんよ」
「むぅ。確かに冒険者になったら、このくらいの暑さは乗り越えないとな」
その言葉には敢えてセレストは何もいわないし、言えない。
「さ、さめないうちにどうぞ」
と、カナンに食事を促した。
熱いシチューではあるけれど、食べやすくはあったので、カナンは残さず食べることが出来た。
「美味しかった」
「それはよかったです。後で伝えておきますね」
そう言って、セレストはカナンに食後のお茶を入れてやると、ふうふうと冷ましながら、カナンはそれを飲んだ。
「なぁ、セレスト」
「何ですか?」
「暑い時はあえて熱いものを食べるほうがいいんだよな? つまりはだな。暑い時は……」
「うわぁっ」
ぎゅっとカナンに抱きつかれて、セレストは戸惑う。
「カ、カナン様?」
「暑い時はいちゃつくほうがいいってことだろう?」
「どうして、そういう理論に……」
カナンの思考の飛躍についていけないセレストである。
「むぅ。これも暑さ対策だ」
「じゃあ、冬は離れるんですか?」
「馬鹿者。冬は暖を取るためにいちゃつくんだ」
その言い方はごむたいであり、愛らしくもあり。セレストは多少の苦笑を浮かべつつ、もう少しばかり熱くなるためにカナンに口付けた。