季節の花が色とりどりに鮮やかな色彩の庭の中。金の髪を持つ、小さな小さな愛らしい天使、アンジェリークは庭に置かれて
いる白いブランコで遊んでいた。
 それは子供用のものを改造したもので、すぐにアンジェリークのお気に入りになってしまっている。初めて庭に置いた時には
大きな瞳をさらに大きくして驚き、パタパタと嬉しそうにクラヴィスとリュミエールの周りを飛んで見せた。

 今日も楽しく遊んでいる天使をクラヴィスは静かに見つめ、リュミエールは優しく見守りながら、スカッチブックに筆を滑らせ、
その姿を書き留めていた。
「♪」
 ブランコから、二人に手を振る様子もまた愛らしい。時々、小鳥や蝶が集まってきてはアンジェリークと言葉のいらない会話を
交わしている。まさしく、絵のような光景である。
(……)
 気配を消して、ロザリアはその光景を見つめている。その表情はどこか複雑な色。
 ルヴァやディアに半ばタンカを切るように飛び出してしまったが、今、こうして楽しそうに遊んでいる様子を見ていると、やはり
迷いが生じてしまう。
 アンジェリークが幸福であることが大切なのだ、と二人は言った。天界に居ることが天使の幸福、そう思ってはいたものの、今
現在、あんなふうに幸福に笑っているアンジェリークを目にすると、自信はあると断言はしがたい。
「……」
 不意にブランコから降りると、アンジェリークはパタパタとロザリアの元まで飛んでくる。
「アンジェリーク……?」
「♪」
 ジッとみつめてくるアンジェリークのあどけない瞳に胸を締めつけられる。どうして、この愛らしい小さな天使は地上に降りて
しまったのか。時を同じくして生まれた自分がいるのに、すっかり人間に懐いてしまったのか。
「何かありましたか、アンジェ?」
 アンジェリークの様子が何か違うことに気付き、リュミエールが庭に出てくる。
(このままじゃ、いつまでたっても埒が開かないわ)
 そう決意すると、ロザリアは瞳を閉じて、精神を集中させる。次の瞬間、眩い荘厳な光が周囲を包み込む。
「!」
 あまりの眩さに一瞬、リュミエールは瞳を閉じてしまった。
「一体、何が……?」
 光がやんだのを確認すると、ゆっくりとリュミエールは瞳を開く。
「あなたは……?」
 目の前にいきなり現れた存在にリュミエールは呆然とする。
「ようやく、客人が姿を現したか……」
「♪」
 そんな事態でも、庭に出てきたクラヴィスに気づき、アンジェリークは嬉しそうにその胸の中に飛びこんでゆく。クラヴィスは
そのまま天使を受け止め、腕の中に収める。
 アンジェリークを抱き上げたまま、クラヴィスが静かな視線を投げ掛けたその先に居る存在。青い薔薇を思わせる少女の姿。
だが、その背には純白の翼。そう、アンジェリークが持つそれと同じもの。
「そうですわ。最初からあなたは私の存在に気付いていましたわね」
「これと同じ気配を感じたからな……」
 そう言いながら、腕の中の小さな天使を見つめる。小さな天使は何があったのかという表情で二人を見比べた。
「何時までも、ここでこうしていても埒はあきませんから。姿を現すことにいたしましたの」
 そう告げると、身にまとうローブの端を恭しく摘み上げ、お辞儀をする。
「この姿を見せるのは初めてでしたわね。私の名はロザリア。そこにいるアンジェリークと時を同じくして生まれた天使ですわ」
 そう告げると、ロザリアは挑むような視線をクラヴィスに向ける。アンジェリークが懐いて止まないただの人間に過ぎない存在。
それなのに、何もかもを見透かしたような瞳をするのが気に入らない。
「時を同じくして生まれた……?」
 聞きなれぬ言葉にリュミエールは首を傾げる。当然である。それは天使の世界での出生の神秘。人間が知る必要のないもの。
 本来なら、人間にこんなことを離す必要はない。暗黙のルールでは禁じられている。だが、ここまでアンジェリークに関わった
二人には話さないと納得はしないだろうというのもわかるから。ロザリアはゆっくりと唇を開いた。

ようやく、クライマックスに向かいそうです……。

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