遊戯

 


 知らない。
 そんなことは言わせない。
 なにもかもを覚えているはずの白く柔らかな肢体を強く抱きしめながら、アリオスは嘲笑した。
 見下ろした先で、少女が怯えとも侮蔑ともつかない表情でアリオスを見上げていた。
「酷いことを口にするのね、アリオス」
 溜息混じりに呟いた少女にうっすらと笑う。
「俺が酷い奴なのは承知のはずだろう、アンジェリーク?」
「ええ、知っているし判ってもいるわ」
 呆れたように言い放ち、少女は逃れようとするかのように身を捩った。
 かちゃり、と手首を戒める鎖が乾いた音を響かせた。
「無駄なことはやめとけよ」
 胸の頂に唇を寄せ、からかうように言う。
「どうせ逃げられない」
「…………っ!」
 屈辱を受けたと言いたげに、少女は顔を歪めて青年を睨みつけた。
「大嫌いよ、あなたなんか」
 悔しそうに絞り出されたお決まりの言葉に、アリオスは笑う。
「本当に退屈させないよな、お前は」
 くつくつと喉の奥で笑い、不意に深い口づけを少女の唇に落とす。
 抵抗を試みる歯列をわり、思うさま貪り、口腔内を蹂躙する。
 優しさのかけらもみせずに。
「ん……、んぅ………あ…はぁ……ん」
 甘いと息が自然と少女の唇から零れる。しかし、アリオスはその唇を解放しようとはしなかった。
 飲み込みきれなかった唾液が、アンジェリークの口端を伝い、首筋を伝う。
 その軌跡を長い指先が辿る。
「あっ!」
 体のラインを辿っていた指先が、まだ硬さの残っている花弁を掠める。
「キスで感じるほど、俺を覚えてるわけだ。お前のここは」
 低く笑って青緑の瞳を覗き込めば、瞬時に少女の顔が羞恥と怒りで赤く染まった。
 意地悪く焦らす動きで指先が下肢を苛む。
「ふ……ぅ、あぁん」
 赤く色づいた胸の突起を、アリオスは口に含んだ。
 屹立したそれを翻弄する。
「い、……や、……やめ」
「冗談。お仕置きは必要だろ、アンジェリーク」
「あっ!!」
 愛液で湿り、解れはじめた花弁に、長い指が入り込んだ。
 くちゅり、と淫猥な音が響く。
 アリオスの指から逃れようと少女が身を捩る。そのたびに少女の手首を拘束する鎖からがちゃがちゃと、耳障りな音がした。
 不愉快そうにアリオスは眉を寄せる。
「外して」
 押し寄せる快楽。
 抗いきれない快楽。
 拘束されて与えられる、愉悦。
 気持ちの上では拒絶をしている白い肢体は、しかし久し振りに愉悦を与える指に悦びを隠せずにいるようだった。
 ねだるように揺らめいている。
「お願い、アリオス」
 悲鳴に近い声が叫び、アリオスは白けた表情で動きを止めた。
「外して、か。頼める立場にいるのか、アンジェリーク?お前は逃げた。そして俺に捕まった。どんな扱いを受けても、文句は言えないはずだぜ」
 残酷に囁いて笑う。
「俺はお前を飼い慣らしたはずだったんだがな」
 苛立たしく、そして面白そうにそう言って、アリオスはアンジェリークの乳房を乱暴に掴んだ。
「や! い……た」
「外してやるよ」
 酷薄な笑みを浮かべたアリオスは、手枷の鍵穴にゆっくりと鍵を差し込んだ。
 硬質の音を立て、鍵が回る。
「あ」
 不意に解放されて、アンジェリークは床に倒れ込んだ。 冷たい床の感触に、そして恐怖にも似た感情に体を震わせている。
 冷たい笑いを整った顔に浮かべ、冷たく見下ろす。
「アリ……オス」
 縋るように見上げれば、アリオスは口端に薄く笑みをはいたままかがみ込んだ。
「最初の威勢はどうした? 快楽に飲まれて悪態をつくこともできないか?」
 ぐい、と乱暴にアンジェリークの顎を掴み、上向かせる。
「知らないと言ったな?」
「……言ったわ」
「俺の与えた愉悦に溺れた覚えはない?」
「ええ」
「こんなに感じていて、か?」
 気丈にも頷いた少女を嘲笑うように言った青年の手が、するりと体を撫で上げた。
 隠しようのない快感が少女の体を走り抜けた。
 アリオスはそれを見逃したりはしなかった。
 満足そうに頷き、震える体を愛撫する。
 愛しさを伝えるためではなく、ただ苛む、そのためだけに。
「二度と逃げ出すことを考えられなくしてやるよ、アンジェリーク」
 少女の体の弱いポイントを知り尽くした指を、好き勝手にさまよわせる。
 時々与える口づけと、気まぐれに花弁に触れる悪戯な手。
 少女が自我を失う瞬間を待っているかのように、それは続けられアンジェリークを翻弄する。追いつめる。
「あ…ん、ぃ……やぁ」
 冷たい床に押し倒された体が、アリオスの指で煽られた熱に支配されて火照りはじめていた。
 追いつめるように蠢く指。
 仰け反る白い首筋に、アリオスは唇を落とした。
 淫猥な音が、不意に途絶えた。
「な……に?」
「踊れよ、アンジェリーク」
「え?」
 少女がぼんやりとした眼差しを向けてくる。
 なにが起こっているのか、まったく判っていない瞳にアリオスは笑った。
「俺の上で淫らに踊ってみせろ。そうしたら、今回は大目に見てやるよ」
「アリオス……?」
「アリオスさま、だろ?」
 お前は奴隷なんだから。
 くつくつと喉を鳴らし笑う。
「逃げ出した、罰だ。――――踊ってみせろよ」
 残酷に。
 愛情のかけらすら見えない瞳を、青年は少女に向けた。 かつて、誰よりも何者よりも愛した半身への、それは狂った――――情熱の証。
 そして少女は、狂気に囚われた青年と踊る。
 永遠に逃げ出すことなどできない、壊れた現実の中。もう二度と離れることなどない、半身とともに。


    END




 まどか様から戴いた創作です。いやぁ、さすが……。やっぱ、才能あるよ。あなたは。アリオス、カッコいい〜。最高〜。