「瑛くん、お誕生日おめでとう。これ、作っていたから、食べてみて?」
 差し出された小箱に瑛はちょっと困った顔になる。誕生日でもサンゴ礁の仕事はある。むしろ、瑛の誕生日はある意味書き入れ時だ。常連客のお客さんから、注文されたはずのケーキを食べさせられたり、食べさせられたり……を、バイトの彼女も見ているはずだったのに。
「ケーキなら、明日にさせてくれ。プレゼントは嬉しかったし……。め、迷惑だなんて思ってないんだからな」
 前半は思わず出た本音で、後半は彼女が怒ったりしないか不安でつい素直でない口調で言ってしまった言葉。瑛の好みを十分理解して贈られたガラス細工の人魚は部屋の一番いいところに飾っておこうと思ったし。
「ケーキじゃないよ、ジュレなの。マスターに冷蔵庫借りちゃった♪ これならあっさりしてるからと思って」
「へ?」
「開けてみて」
「あ、ああ……」
 言われるままに箱を開けると、涼しげなカットガラスに赤のグラデーションが鮮やかなジュレが入っていた。色々な赤のジュレが重なる中に透明で細長い何かが色の変化をさらに面白いものにしている。
「あ、これなら、食えそう……」
 通常のゼリーと比べよりも柔らかめですぐにでも流し込めそうだ。
「はるひちゃんがお店の新作だからってくずきりが入ったゼリーもらったんだけど。それがおいしかったから、試行錯誤で作ってみたの」
「へぇ……。うん、食ってみる」
 くずきりを食べる感覚で、けれどゼリーを味わいながら。ザクロ、クランベリー、アセロラ等々……。違う赤の果物の味の中で、くずきりの食感。
「あ、この透明なの、くずきりか……。ジュレがプルプルで流し込めるのに、この食感面白い。うん、うまい」
「嬉しい。ケーキじゃ瑛くんにはかなわないから、これならいけるかと……」
「いや、まだまだ、だな。俺が作れば改良の余地はある」
「もう……。そんなのこというなら、残りはマスターにあげるから」
「い、いや。それは駄目だ! 俺がもらったんだからな」
「もぅ……。気に入ってくれたなら、うれしいけど」
「言っただろ! うまいって」
 はたから聞いていれば十分痴話げんかで。マスターこと佐伯総一郎は聞き耳を立て、もとい、自然と聞こえてくる二人の会話に笑いをこらえていたりする。
「でも、これ。色もきれいだな……」
「でしょ? あのね〜。灯台から見える夕暮れをイメージしたんだ〜」
「え?」
 少女の顔をまじまじと見つめる。
「ダメなの? ガラス細工をイメージして色も考えたんだけど……。佐伯くん、ガラス細工好きだし……」
「う、うん……」
 無自覚らしい言葉にため息をつきそうになって、頭を振る。どうであれ、瑛のためだけに考えて、作ってくれたものなのだ。
(俺が作る場合は人魚と若者をつけてみたら、こいつどんな顔するんだろうな……)
 とりあえずは彼女からレシピをまず聞くことだけれども、その時を考えて、自然と笑みがこぼれた。
 

瑛、お誕生日おめでとうvvv くずきり食べてて、ガラスみたいできれい…と。くずきりゼリーはこの時期に自分へのご褒美によく買いますw
ブドウ味がお勧めですw



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