人魚の涙
「瑛くん、お誕生日おめでとう」 「ああ……」 恋人同士になってから初めて迎える瑛の誕生日。大学に入ってから、一人暮らしになった彼の家でのお祝い、である。 「本当は僕も一緒にお祝いしたいところですが、瑛に叱られますのでケーキだけにしておきます」 とのことでケーキは総一郎作で、後の食事と飾り付けは彼女がやってくれた。 「ケーキだけは安心できそうだな」 「あ〜。ひどい。じゃあ、これ、片づける!」 「冗談だよ、バカ」 好きな女が自分のために一生懸命やってくれることが何よりの祝福なのだ。それは高校生の時からそう思っていた。あのころは恋人ではなかったけれども。こんな風に祝ってもらえる日が来るなんて半年前には思ってもいなかったから、なおさら、だ。 「サンキュウ……」 「うん。あのね、プレゼントもあるんだよ」 そう言って、プレゼントを取り出そうとする彼女の手を瑛はつかむ。 「瑛、くん? プレゼント出せないよ? いらないの?」 「いるけど……。その、前にな」 そう言いながら、瑛はポケットから小さな包みを取り出す。 「何?」 「開けてみろよ」 「うん……」 疑問に思いながらもあけてみると、小さなケースがでてくる。 「え……」 「ほら、開けて」 「わぁ……」 ケースの中には真珠の指輪が入っていた。 「手、貸して……」 「うん……」 反射的に右手を出すと、瑛は苦笑して、彼女の左手をとる。 「今はこれしか買えないけどけど、いつかは、な……」 薬指にぴったりとはまるリングを彼女は戸惑うような瞳で見つめて。 「私の誕生日、まだ、だけど?」 「……知ってる。でも、渡したかったんだ。俺の人魚だって証に……」 そう言って、その甲にそっと口づける。 「真珠って、人魚の涙からできたって話もあるんだ。こんなに綺麗で優しい色だったら、幸せの涙だと思う……。おまえには幸せな涙だけを流させたいって思った。その誓いに」 「瑛、くん……」 「だから、受け取ってくれよ……」 「うん……」 大きな瞳に浮かぶ綺麗な涙。幼い頃に見た少女も綺麗な涙を流していた。あの時は迷子になった不安だったり、恐怖だった利の涙だったけれど、今、目の前の彼女の涙は喜びに満ちていて。 「ああ、本当だ……」 「?」 「人魚の涙だって……」 優しく涙を拭う瑛にされるがままになる彼女をそっと抱きしめる。 「今日はずっとそばにいてくれるか……?」 耳元で囁かれるその言葉に彼女はかすかに身体を震わせて、そっと頷く。何よりもそれが一番の贈り物だと瑛は思った。 |
真珠が人魚の涙…といわれてるのを思い出して書いた話。瑛、お誕生日おめでとうvvv
ちなみに指輪を送ろうと思うエピソードはまた書きますw
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