メイプルシフォン
「秋だからね。羽ばたきやまま紅葉で色付いて来たから、メイプルシフォンのケーキを新メニューに焼いてみたんだがね。どうかな?」 「ふわふわでメイプルシロップの甘さが最高?」 珊瑚礁のマスターの新作ケーキの試食を頼まれたことだけでも、バイトをして良かったと思う。 「コーヒーにも合いますよ♪ はるひちゃんに教えたいな?」 甘い物が大好きで本人も洋菓子店でアルバイトしている友人の名を上げると、途端にチョップが落ちて来た。 「痛い?」 「これ、瑛」 痛みに瞳で訴える少女。マスターである祖父にたしなめられても、瑛は不機嫌そうな顔。 「お前が悪い。西本なんかに言ってみろ。明日からコーヒーの味も分からない連中に店に来られるだろうが。長時間居座られたら、店の売り上げにも響くんだぞ」 「?。じゃあ、男の子ならいいのね」 不満そうな顔をしつつ、少女はメイプルシフォンの残りにぱくつく。 「天地くんなら、男の子だし、まぁ……」 こちらも向こうの本当の姿を知ってると言うことがあるから、大丈夫だろう。そんなことを考えつつ、シフォンケーキを堪能している少女は瑛の不機嫌が加速しているのに気付かない 「天地くんというのは」応援部の後輩なんです。甘い物が好きだから、あの子?」 マスターの言葉にニコニコと答える少女。マスターがチラリと瑛を見ると、ますます不機嫌になる孫の姿。 (気づいてもらえないのは、おとぎ話では人魚なんだがねぇ……。はばたきしの人魚はそうはいかないようだね……) 恐らくは次のチョップを繰り出すであろう瑛といたいと抗議する少女の姿が容易に浮かんで、マスターは苦笑するしかなかった。 |
応援部設定で。帰り道にシフォンケーキ専門店があったのを思い出して書いたのかも
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