味覚の相違

「苦い……」
 グラスの中の琥珀色の液体に顔をしかめる小さな王子にセレストは苦笑を漏らす。目を離した隙に飲んでいたグラスに王子様専用のバケツにロープをつけたもので液体を取り出したらしい。挙句の果てには酔っ払っているようだ。
「う〜、何でこんなのが美味い……」
「味覚が違うんですよ」「味覚?」
「カナン様はまだお小さいでしょう?」
「むう〜。小さいって馬鹿にするのか?」
 むっとした顔をするカナンにセレストは慌てて首を振った。
「違いますよ。ただ、味覚が十分に発達しておられませんし、身体がアルコールをちゃんと分解できてないですから。カナン様のお身体をご自分でお守りになったんですよ」
「うーん。つまりは僕の身体はまだ酒には敵わないということか……」
 勝負ではないんだからと苦笑しながら、セレストは小瓶にはいった褐色の液体をカナン専用のグラスに少し注いでから、水を入れてやった。
「これなら、どうですか?」
「?」
 疑問を浮かべながらも、セレストが勧めてくれたので、カナンはそれを口にしてみた。
「美味いぞ、セレスト!」
「それはよかったです。それもお酒なんですよ」
「なんと! 酒とは苦くてくらくらするだけのものではないのか?!」
 カナンの言葉にセレストは再び微苦笑を浮かべる。自分が飲んでいたのは割ときつい目の蒸留酒だった。だが、今カナンに入れてやったものは全く別のもの。妹のシェリルに健康のために、と持たされたものだった。
「梅を氷砂糖とお酒で漬けて作った果実酒です。梅酒っていうんですよ」
「梅酒かぁ……。そういえば、梅の香りだな」
「お気に召していただけましたか?」
「うん。こんな酒なら、悪くはない。もっと飲みたいくらいだ」
「いけません。さっき、私の分の酒を飲まれたでしょう。これ以上はよくありません」
「むぅ…セレストのけち」
 抗議の視線に心が痛まないこともないが、ここは心を鬼にしなくてはいけない。
「ダメです。明日に残ったら、二日酔いになりますよ。頭は痛くなるし、気分は悪くなるしで最悪な気分になります」
「僕は……」
「そうなったら、明日のお散歩の約束はなかったことになりますね。私はカナン様の看病をしなければ行けませんし」
「……わかった」
 寂しげに肩を落とすカナンにかわいそうだとは思いつつ、これもまた教育の一環だ。
「今度は一緒に飲みましょうね」
「うん! もちろんだ!」
 セレストの言葉にカナンは嬉しそうに頷いた。

ちっちゃ王子です。コレも、一種のセレカナでいいんですよね?