Midnight Lesson


 カナンの言葉はいつも唐突だ。そんな主君に振り回される日々のセレストの苦悩は日々続く。
「うしに乗れるようになりたい」
 今日もそんなことを言い出した。セレストとしては、穏やかにカナンにお茶の時間を過ごしてもらいたいのにもかかわらず、だ。
「うし、ですか? うしバスではなく。うしに?」
「そうだ、うしに、だ。魔法ビジョンで兄上と『暴れん坊ジェネラル』を見たんだ」
「ああ、あれですか……」
 砂丘をうしで颯爽と走るJAPANの将軍の物語だ。勧善懲悪ですっきりともする。情操教育のためなのか、王族としてあるべき姿を学ぶために見たのか、単なる娯楽なのか…あまり考えたくはない。
「でも、あれはすごいですよね。将軍だとわかっても、『かくなる上は上様を…』だからな〜」
「確かに……」
 あの開き直りはどうかと思うのはセレストも同意で。思わず頷いてしまった。。
「それで、だ。僕もあんなふうに颯爽とうしに乗りたいと思ったんだ」
「……はぁ」
 言い出したら聞かない人だ。セレストの頭の中ではどのうしがおとなしくカナンを乗せてくれるだろうかと、考えざるを得なくなった。


 そして、翌日。午後の時間にセレストはカナンを乗せたうしの綱をとって、ゆっくりと歩き出した。
「むぅ」
「どうかなされましたか?」
「僕は颯爽と駆けたいのだが」
「無理ですよ。まず、うしに慣れていただかないと。今だって、うしに乗せられている状態でしょう?」
 カナンの言葉をセレストはきっぱりと否定する。
「僕は闘うしのスキルを持っているのにか?」
「それとこれとは別です。必要なのはうしとの信頼関係ですから。このうしだって、私のうしですから、おとなしくカナンを乗せてくれてるんですからね」
「むぅ。ロデオとかはまだ無理そうだな」
「無理です!」
 あれは技術がいるのだと言っても、納得しないようだ。だが、今もうしに乗せられている状態で、牛の揺れにもなれないカナンにどうしようもない。
「なれる必要がありますね……」
「う〜」
 不満そうにカナンはセレストを見つめるが、セレストはそれを無視して、夕方までカナンの乗うしに付き合ったのであった。


 そして、夜。部屋を抜け出してやってきたカナンにセレストは大きくため息をついた。
「抜け出さないでくださいと……」
「でも、僕の特訓に付き合ってもいいだろう? うしに乗れるようになったら、しばらくはおとなしくしてやるから」
 一度決めたことはひかない性格のカナンをセレストは熟知している。
「おうしさんごっこは勘弁してくださいよ?」
「むぅ」
 本気だったのかとセレストはため息をつく。だが、ふと、セレストはあることを思いついた。
「カナン様……」
「何だ?」
 カナンがセレストを見上げるのと同時に引き寄せて口付ける。
「ん、っ……」
 僅かな唇の隙間から、舌を忍ばせて、カナンの口内を蹂躙するような口付けを送る。カナンの力がずるずると抜けて、セレストに支えられるまで、それは続けられた。
「ふ、っ……」
 ずるずると崩れ落ちそうな身体をセレストに抱えられる。
「実践、させてあげましょうか?」
「?」
 セレストの意図するところがわからないままにカナンは彼を見上げるしかなくて。その瞳は僅かに情欲の色を移していた。
「うしの動くリズムを掴まなきゃいけませんしね」
 そう言いながら、セレストはカナンの耳を甘く噛んで見せて。それだけのことで、カナンの身体は震える。セレストはそんなカナンをベッドまで運んだ。


「あ、あぁ!」
「ほら、カナン様、リズムを合わせてください」
 抑えきれない甘い悲鳴がカナンの唇からこぼれる。セレストの腹の上に手をついて、自重で飲み込んだセレストをもてあまし気味に苦しげに息をついている。
「ほら、リズムに乗ってください……」
「や、無理……」
 突き上げてくるセレストの動きは不規則で、ただでさえ自分から受け入れる体制のカナンにとっては翻弄されるしかなくて。
「セレスト、もっと、ゆっくり……。あ、ん!」
 緩急をつけられたり、激しく突き上げられたり。身体がついていかない。
「駄目ですよ。うしのロデオをなさりたいんでしょう? そんなものじゃないんですよ?」
 意地悪くセレストは笑って、硬く立ち上がったカナンの中心に手を伸ばす。そこはすでにとろとろと雫をこぼしていて、セレストの手を濡らす。
「ひ、ぁっ!」
 カナンの身体が大きく跳ね上がる。
「…ん、もぉ……」
 限界を訴えるカナンをセレストはより強く突き上げて、カナンの中心を強くつつきあげる。
「あぁ!!」
 限界に達したカナンはあっけなくセレストの手の中に白濁を吐き出した。
「あ…っ……」
「まだ、ですよ……。まだ、練習は必要ですから……」
 くったりとセレストの胸に倒れこむカナンだったが、セレストの熱はまだ収まっていない。軽くゆすぶられたら、簡単に達した身体に火がつく。
「や、駄目……」
 抵抗しても身体は逆らえなくて。そのまま、カナンはセレストの動きに流されるしかなかった。


 ぐったりとベッドに沈むカナンの身体をセレストは丁寧に清めてやる。
「セレストの馬鹿者……」
「実践してあげたでしょう? うしの揺れはあんなものじゃないでしょう?」
「馬鹿!!」
 ボン!っと、枕を投げるが、枕の持ち主であるセレストの腕に捕らえられて。
「また、練習しますか?」
「こんな練習なんかいらない!!」
 プイと顔をそむけてしまうカナンをなだめるように頬にやさしい口付けを落として。
「……練習にかこつけないで、手を出すなら、素直に出せ」
「……わかりました」
 カナンの言葉にセレストはにっこりと頷いた。

すみません……。イケイケなセレストで……。へたれ従者が好きなはずなのに……。


BACK