再・男のロマン

「今度は間違いなくセーラー服だ。男のロマンだぞ!」
 おやつを持って部屋に入ってきたら、セーラー服姿のカナンがいて。セレストは思わずおやつが乗っているトレイを落としそうになった。以前のセーラー服は水兵さんのものだったが、今度は紛れもなく女学生の制服であるセーラー服である。
「カナン様、女装しているという自覚がありますか?」
「……女装なのか? お前、セーラー服は水兵さんの服だといったじゃないか」
「そちらは女学生の制服の方のセーラー服ですよ……」
「そうか、通販の本には『これで彼も大満足! 永遠の男のロマン、セーラー服!』とかいてあるのを確認して買ったのだが、女学生のものか……」
 蔵書以前にどこでどのように通販を利用しているのかも気になる。一度、調べた方が良いのかもしれない。
「で、何で男のロマンなんだ? 姿見で見たが、冒険の方がずっと男のロマンじゃないか!」
 力説するカナンに、この王子の世間知らずの子供っぽい思考に安堵する。
「そういう趣味の方もいらっしゃいますからね……」
「セレストにはそういう趣味じゃないのか?」
「……私を何だと思ってらっしゃるんですか?」
 軽く溜め息をついて、セレストはカナンの姿を見つめる。白のラインのセーラーに、黒のスカーフ。膝が見えるか見えないかの長さのスカート。紺のハイソックスにスニーカー。
(ルーズソックスや短すぎるスカートでなくて良かった……)
 どうにか理性を押しとどめられる範囲だ。
「ご満足なさったのなら、お着替えください」
「まだ、納得してないんだが。この服がどうして燃えるとかいうんだ?」
 たぶん、それは草冠に明るいと書く萌えなのだろうが、カナン自身が判っていない分、タチが悪いと言うべきか。
「試してみますか?」
 戯れに口を付いたセレストの言葉にカナンはきょとんとした顔をする。どうやら、本当に判っていないらしい。
「……試す?」
「ええ。私はそういう趣味はありませんが、カナン様が興味あるなら」
 あえて、好奇心をあおる言葉を口にすれば、カナンが乗ってこないはずはなく。
「ああ。試してみる! よし、来い、セレスト!」
 まるで何かに挑むようなカナンに微苦笑を浮かべつつ、セレストはカナンを引き寄せ、腕の中に閉じ込める。
「セレスト?」
「試すとおっしゃったでしょう?」
「え?」
 戸惑うカナンが何かを言うより先にセレストはカナンの唇を自分のそれでふさいだ。
「んっ……」
 カナンが抗議の声を上げようと唇を開いたとたん、セレストの舌がカナンの口内に入り込んで、自在に動き回る。深い口付けにカナンがおぼれかけている中、セレストの手がセーラー服の上衣のすそから入ってきた。
「!」
 下には何も着ていなかったため、滑らかな素肌をセレストの指がゆっくりと撫で回す。やがて、胸の突起を見つけると、執拗にそこに触れてくる。
「ん、むぅ……」
 口付けられたままで、自在に触れられているので息苦しくて仕方ない。抗議するようにセレストの肩を力の入らない腕で何度もたたくと、ようやく唇が開放された。
「はぁ…っ……。ひゃっ?」
 しっかりと腰に腕を回され、固定されていて。今度はスカートのすそから、セレストの手が入り込んでくる。
「や、やめ……」
「試すとおっしゃられたのは、カナン様でしょう? おやめになりますか?」
「……」
 挑発するような口調にカナンは硬く唇を噛む。
「こんなのが、ロマンなのか? 冒険のほうがずっと……」
「……カナン様には、ですね? でも、こういうロマンもありなんですよ?」
 私はそういう趣味はありませんけれど…と、再び耳元でそう囁かれて。その声だけでもぞくぞくする。
「……やめましょうか?」
 煽るだけ煽って、その言葉は残酷に耳に届く。
「……中途半端はいやだ」
 かろうじで伝えたその言葉にセレストはあくまでも柔和な笑みを浮かべたまま。
「じゃあ、最後まで試しますね」
「馬鹿者……」
 どこか楽しそうに聞こえるその言葉に、そう毒づくのが精一杯のカナンであった。


「っ、く……」
 たくしあげられたセーラー服の上衣。胸元をなぶるのはセレストの指。
「ふ、ぁ……」
 汚すといけないからと、スカートはすでに取り払われている。丁寧にたたまれている辺りがセレストらしい。だが、そんなことを考える余裕もないほどにカナンの熱は煽られていて。
「や、セレスト…もぅ……」
「もう、なんですか?」
 意地悪く囁かれる声にカナンは下唇を噛む。判っているくせに。こんな時だけ、この恋人はこんな風にカナンから、請う言葉を引き出そうとする。
「察しろ、そのくらい……」
 それがカナンにとって、精一杯の言葉だと知っているから。セレストはすでに先端から蜜をこぼしているものに手を掛けた。
「ん、く……」
 声を堪えようとしているのか、そうでなく、息がうまく出来ないためか。苦しげに息を吐く。
「今、楽にして差し上げますよ」
 ゆるゆると動かしていた手を解放に向かわせてやると、軽い悲鳴をあげて、カナンは達した。
「まだ、ですよ……」
 そう告げると、セレストは達した直後で呆然としているカナンの最奥をぬれた指先で探り始める。
「や…まだ……」
「止まりませんよ……」
 口調は穏やかなのに、中を探る指はカナンを確実に追い詰める。カナンがどうすれば良いのか、知り尽くした手はただカナンを乱れさせるばかり。
「や、もぅ……」
「カナン様?」
「お前も……。僕だけじゃ、やだ……」
 先ほどよりは、素直な言葉に満足げに笑みをこぼすと、セレストはすでに熱くなっていた自分自身をカナンの中に沈めて行く。後は…ただ狂気とも言える快楽の宴に二人落ちてゆくだけ……。


「う〜」
 行為の後、身を清められ、いつもの城内服に袖を通したカナンは複雑そうな顔でセレストを見つめる。
「どうかされましたか」
「やっぱり、燃えるものなのか?」
 カナンの率直すぎる言葉にセレストは苦笑を漏らす。
「……そういう趣味はないとは申し上げたはずですが」
「でも、お前は結構、その……」
 言いあぐねるカナンにセレストは苦笑する。
「あの服が…というよりはあの服を着ていたカナン様だからですよ」
「僕が着ていた、から……」
「服だけに反応してたら、私はただの怪しい人じゃないですか」
「うむ…一理あるな……」
 そう納得したように考え込んでいたカナンだったが、不意に瞳をきらめかせて言った。
「じゃあ、今度は別の衣装で試してみよう!」
「……カナン様」
 この人の辞書には『懲りる』と言う言葉はないのだろうか、そう考えて、セレストは深い溜め息を吐いた。

表で書いたものの続きだったりしますが…趣旨がやっぱり間違ってるような……。
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