カナンが作ったカレーにいれた『あやしい薬』の効果で花畑が違う意味で薔薇の園になりつつあった。
「カ、カナン様……」
「セレスト?!」
 地面に押し倒され、体を探るセレストの手はいつもより性急で。何よりもその瞳は理性を失いかけている。
(まさか、あんな効果があるなんて……)
 おそらくは催淫系の媚薬なのだろう。向こうではカイラバ画伯と中川がえらいことになっている。
「ん…あっ……」
 カナンが思考に耽る間もなく、セレストの手は的確にカナンをあおっている。原因は自分にあるとは言え、こんなところで、しかも、理性をうしないかけられている状態でコトに及ばれたくはない。
「やめろ、セレスト!」
 わずかでも残っているかも知れない理性にかけて見た。カナンの意図は成功し、反射的にセレストがカナンから身を離す。長年の従者気質が本能に勝ったようだ。複雑なものを感じつつ、カナンは手早く帰り木を二本出すと、一本をヘルムトに投げ渡した。
「ヘルムト! 僕はこいつを何とかするから、先に都市長邸に戻ってくれ!」
「あ、あぁ。わかった……」
 とりあえず、この様子では遺跡調査に差し触ると判断したのか、あっさりとヘルムトは帰り木を使用して、ダンジョンを脱出する。
「セレスト、行くぞ!」
 薬の効果に必死であらがっているセレストの腕を掴んで、カナンは帰り木を使用した。


 ダンジョンの外に無事に出られて、カナンはホット息をついた。
「セレスト……」
「カナン様は先にお戻り下さい……。私は薬が切れるまでは戻れませんから……」
 今も理性と衝動の狭間で揺れているのだろう。従者としては正しい姿ではある。だが、恋人としてなら、半分は失格である。
「馬鹿者…責任は僕にある」
「ですが…今の私はあなたに何をしでかすか……」
 恋人を気遣うのは正しい姿、だ。けれど、だからと言って、そんな状態で放置しろと言うのは、おかしいとも思う。そんな状態の恋人が万が一、自分以外の誰かに…だなんて悶々と悩めとでも言うのだろう。
「宿屋に行こう。あそこなら、その…気にしないでいいだろう?」
 都市長邸では色々とまずいが、宿屋の主人に急病だからと口実をつけてしまえば問題はないだろう。
「知りませんよ……」
 荒く息をつきながら、そう言ったセレストの瞳は欲情の色を映していて。こんな時にとは思いながら、カナンの心臓は大きく跳ね上がった。



「何かあったら、呼んでくださいね」
「ああ、すまないな」
 宿屋の主人に何とか言い訳をして、ローウェルにも今日は戻らないかも知れないと伝言を頼んだ。
 ガチャリ。扉の鍵を閉める音が妙に大きく聞こえた気がした。
「!」
 途端に背後から抱き締められる。カナンを抱き締めるセレストの腕はいつもよりもずっと熱い。
「あ……」
 腰に押し付けられたセレストの熱にカナンは身をすくめる。荒い息遣いが耳を打つ。
「すみません……」
 そう告げると、セレストの手はカナンのベルトにかけられた。
「え、ちょ…っ……」
 いつもよりも性急なセレストの行動にカナンは戸惑うが、セレストは意に介せず、そのままズボンの中に手を滑り込ませた。
「や、あぁ……!」
 直接、触れられて、カナンの背中が大きくしなる。いつもはカナンの爪の先ほども傷付けないように触れてくるのに。こんな風に性急にカナンを追い立てる真似はしないのに。
「ん、あぁ……」
 セレストの手によって、既に堅くなり、先端から滴がこぼれ落ちている。既に体から力が抜けているのをセレストに支えられて、ズボンは既に膝の辺りまでずりおちていた。
「や、もぅ……!」
 容赦のないセレストの愛撫に限界を訴えるカナンに、セレストは先端に軽く爪を立てて、解放を促した。
「う…あぁ!」
 あっけなくカナンはセレストの手の中に白濁を吐きだした。一気に追い上げられたカナンの体は力が入らず、セレストが片腕で支えている。鍛えられた体とそうでない体の違いを見せ付けられている気分になる。だが、そんな思考もセレストにとろかされてく。
「ん、ぁ……」
 セレストの長い指がカナンの中を自在に動き回る。カナンが吐きだしたものを塗り込んでは奥をまさぐる、そんな行為ですら、いつもよりも荒々しく、強引で。慣らすための行為と言うよりは追い立てられるような感覚だった。カナンの感じる部分を見付だし、快楽を引きずり出して行く。指の本数が増えても、難なくカナンの指はそれを受け止めていた。
「カナン様、参ります……」
「え? あぁ!」
 カナンの反応よりも先にセレスト自身がカナンの中に押し入れられた。指よりも強い圧迫感にカナンは息を詰まらせる。こんな風に求められるのは当然初めてで。いつもなら、セレストはカナンの体を気遣ってくれるのに。
(多分、薬の効果なんだろうな……)
 がむしゃらに求められて、カナンは揺さぶられるままにセレストに溶かされてゆく。
「く、っ……」
 いつもとは違い、手荒く抱かれているはずなのに、セレストはカナンが感じる部分を確実に責めてくる。背後から、しかもセレストの腕に支えられたまま貫かれている状況。快楽を覚えてからそれほど経たない体、その精神をを蝕むのには十分すぎるほど、だ。
「や…だめ……」
 このままだと、おかしくなってしまう。それとは裏腹により強い快楽を望む矛盾。限界をとうに体は感じていて、カナン自身は再び、堅く立ち上がり、とろとろと蜜を溢している。
「駄目…だ、もぅ……」
 切れ切れの声でカナンは限界を訴える。だが、セレストはそれには応えず、いきなりカナンの中を抜け出した。
「え……?」
 こんな中途半端なままで止められるなんて耐えられない。セレストだって、限界なはずなのに。視線でそう訴えるカナンをセレストはそっと抱き上げた。
「このままだと、お部屋を汚してしまいかねませんから……」
「ば、馬鹿者!」
 真っ赤になって抗議の声を上げるカナンを気にすることなく、セレストはカナンをバスルームに運びこんだ。


 ザーッ。熱いシャワーが肌を打つ。けれど、それ以上の熱さが体をさいなむ。
「あ、ぁ……」
 セレストの膝の上に乗せられて、体をむさぼられている。突き上げられるその動きにいつしかカナンの腰も揺らめいていた。
「やぁ…っ!」
 バスルームに響く声はかろうじでシャワーに打ち消される。それでも、羞恥心は消えないし、それは快楽を生むスパイスにしかなり得ない。
「もぅ…セレ…ス、ト……」
 限界を訴えるカナンにセレストは口付けを与える。わずかなカレーの味とカレーとは違う苦味が口づけから伝わる。
(これ、薬……)
 ぼんやりとした思考で考えるが、すぐに快楽にのみこまれてしまう。
「ひっ…あぁー!!」
 より強く突き上げられて、カナンは自身を解放する。そのカナンの締め付けに、セレストもカナンの中に自身を解放した。
「はぁ……」
 ぐったりとセレストにもたれかかるカナンの額にチュッと口づけを落とす。
「カナン様、可愛い」
「馬鹿…者……」
 可愛いと言われて誰が喜ぶのか、と顔を背けるカナンに、セレストはカナンの中から抜け出すと、カナンの体を反転させた。
「可愛いですよ、ほら……」
 背後からセレストに抱き込まれるような格好にさせられる。しかも、目の前には鏡がある。鏡に写る自分のあられもない姿にカナンはじたばた暴れだそうとするが、強い力で押さえ込まれていては、どうしようもない。
「ほら、ここも……」
 中心に再び触れられ、カナンは身をすくめる。快楽に溺れる自分の姿など見たくはないのに。目をそらせない。そして、鏡越しに見える、セレストの表情も欲情に濡れていて。それを見て、ゾクリと背中に何かが走った。
「っく、あぁ!」
 再び、セレストがカナンの背後から侵入してくる。背後から揺さぶられ、中心をなぶられて。もう何も考えられないし、考えたくもない。
 ただ、快楽に溺れていたい。今はもうそれだけであった。

探さないでください……

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