CALLING
「カナン様」
セレストが呼び掛けて来る。従者として、カナンに仕えるようになってから、何度も何度も聞いて来た声。城で働く者たちの
中では一番多くカナンの名を呼んでいるであろうし、もしかしたら、家族以上かもしれない。
「カナン様〜」
カナンの行動にに困った時にも。
「いけません、カナン様」
窘める時の声も。
「おはようございます、カナン様」
朝の挨拶の時も。
「そうですね、カナン様」
柔らかな笑顔と共に名を呼ばれる。カナンの傍に仕えるようになってからずっと、だ。
「馬鹿者」
呟いて、カナンは溜息を一つ。何だかずるい、とも思う。何度も何度も呼ばれた名前。そんなささいなことに心がさざ波の
ように揺れてしまう。
(これではまるで……)
至りかけた考えに、途端に頬が紅潮する。恋する乙女のような思考だと思った途端に嫌でも自覚してしまう。抱き締めら
れた腕の温かさと安堵感と共に感じた言いようのない感情。他の誰でもなく、ただ一人の誰か、…セレストだけに向けられた
甘く苦い思いを……。
「こんなのってずるいじゃないか……」
どんな形であっても、セレストが自分の名を呼ぶことで沸き上がる甘い感情。その度にどきどきするのが、自分だけなんて、
理不尽もいいところだ。
例えるのなら、言魂のように。セレストを呼ぶカナンの名は甘くカナンを呪縛する。
「カナン様、いかがされましたか?」
そういって、心配そうにのぞきこんでくる。
「いや、何でもない」
魔法はその素質がないと、使えない。それなのに、こうしてカナンの名を呼ぶだけでカナンの心を甘く搦め捕る。
「セレスト」
「何ですか、カナン様?」
「……何でもない」
悔しいから、本当のことは言わない。自分の名を呼び続けさせてやろう。そんなことを考えるカナンであった。
名前を呼ばれるのは、くすぐったくも甘いんですよね。くすっ。あまあまスキーな私(^。^)