Beauty
「どうぞ、坊ちゃん」
「……」
「別に何も入ってませんよ。今、坊ちゃんの目の前で買ったクレープですよ」
白鳳に差し出されたクレープを出されたカナンは受け取るかどうか峻巡する。
「何故、おまえがこの国にいる」
「何故だと思います?」
「温泉きゃんきゃん、か?」
「さぁ?」
綺麗な笑みではぐらかすのはいつものこと。彼が何をかんがえているかだなんて、理解する方が難しいのかも
しれないとすら思う。
「で、食べないんですか? 買うつもりだったんでしょう?」
「う……」
城を抜け出して、クレープを買おうとしたところを白鳳に遭遇したから否定もできない。
「坊ちゃんか受け取ってくれないと、手にクリームがつくんですよ。責任とって、私の手を舐めてくれるんですか。
私はそれでも構いませんが」
「誰が!」
反射的に白鳳の手からクレープを取ってしまった。
「む〜」
まんまと白鳳の手の平で踊らされてしまうのが、何だかしゃくで。カナンはわざとクレープにがっついた。
「おいしいですか?」
「ああ。城下で評判だと侍女たちが話してるのを聞いて、食べてみたかったんだ」
「それなら、お城に呼んで作ってもらうなり……」
「僕の意思で店主の手を煩わせるのは気の毒じゃないか」
白鳳の言葉にきっぱりと持論を展開するカナンである。彼らしいと言えば、彼らしいのだが。
「セレストは気の毒じゃないんですか?」
いつも一緒にいるはずのセレストがいないということは当然、カナンの単独行動で。今頃は探し回っているで
あろう。
「あいつは気苦労が性分みたいなものだしな」
と、この発言である。本当にごむたいだ。
「そう言えば、スイは?」
カナンはと言えば、白鳳がいつも連れているスイの不在にようやく気付き、疑問の声を。
「宿で休んでますよ。神風が側にいてますから、安心して任せられますし」
「そうか。このクレープは美味しいからな。土産に持っていってやれ」
「へえ……」
カナンの言葉に白鳳の瞳が悪戯っぽく輝く。
(な、なんだ……)
カナンが身構えるよりも先に白鳳はクレープを持っている方のカナンの腕を引き寄せた。
「あ、本当だ。美味しいですね」
その挙げ句に食べかけのカナンのクレープを口にする。
「な、何をする!」
「何って、味見です」
「自分の分なら買えばいいだろう!」
「他人のものだと美味しそうに見えるんですよ」
しれっと答えた白鳳の顔は悪戯っぽくもあり、楽しそうでもあり、どこか、子供っぽくて。初めて見るその表情に
半ば見惚れながら、カナンは無意識にクレープを口にしていた。
「坊ちゃん」
「な、何だ?!」
急に話しかけられて、慌てるカナンに白鳳はますます楽しそうな顔になった。
振り回すタイプの大人と勝気な子供の取り合わせは好きだったりします。…アリオス・コレットのパターンか(笑) 白鳳さんがアリオス
なのはともかく、カナンのコレットはちょっと嫌。どっちかというと、カナンはリモだと思う……。
王子部屋